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職場と労働法相談コーナー

 

 

仕事上の「ミス」で「損害賠償」を命じられました。

ここに掲載したのは、「労働通信」ホームページにメールでよせられた相談の内容です。

<相談>

 4ヵ月しかパート勤務していない会社で、現在5万円もの弁償請求の勧告を受けています。

 今回、教えてられてもいない仕事の手配ミスを理由にして5万円の弁償請求を命じられました。商品発注の際の単価計算を間違い、その差額を支払えということです。

 また、このことは本社には秘密で内部処理をするということで、営業担当者も発注元のお客様に値段交渉する努力をまったくしていません。

 他の社員も発注ミスが生じた場合、自費にて高額な弁償をしているらしいです。なかには弁償として20万円近く払っている人もいるそうです。それが当たり前と思っているらしく、高額な額に笑って自慢している社員さえいます。

 正社員として勤務している人と同じ仕事上の責任を課せられ、損害賠償を請求されるというのは「常識の範疇」なのでしょうか。

 無茶苦茶な経済観念にあきれかえり、わたしは来月早々この会社を辞めます。しかし、「損害賠償」のお金を払うのは簡単ですが、このままみすみす高額な支払いをする必要もないのではないかと思い、御相談のメールを送りました。

 現在直属の上司に直談判をしている途中です。

<「労働通信」より>

上司の指導・監督の責任

 結論からいえば、「常識の範囲」からみても、あなたが損害額の5万円をまるごと弁償することはないと考えます。上司は、パートであるあなたにたいする指導・監督の義務があり、ろくに発注の仕事を教えないでその仕事をさせ、ミスが生じたとすれば上司に責任があります。ましてや、あなたはパートであり、正社員同様の責任を負わせることは酷です。道義的にみても、問題がおこったときの責任を全部部下になするつけるような上司は、自分の管理能力のなさをみずから証明しているいるようなものです。百歩ゆずって、被害額をあなたと上司で折半することはあったとしても(それもおかしいですが)、全額弁償というのは理屈がとおりません。

 会社側は、その気になれば、あなたにたいして損害賠償を請求する訴訟をおこすこともできないではありません。しかし、今回の問題は本社には内緒にしているわけですね。もし、裁判になれば当然、本社の知ることとなり、それこそ所長の「管理能力」が本社から問われることになります。たかが5万円(個人にとっては多額ですが)のために、会社や所長がそこまでするのか、を考えたら、圧倒的にあなたが有利です。どのみち、あなたは会社をやめるのですから、ひらきなおったら勝ちです。

「減給」処分の制限条項

 つぎに、法律的に見たらどうなるのか、私たちなりに調べたことを書きます。

 労働者にとって有利な法律条項ではつぎの点があります。

 労働基準法では、労働者の仕事上の失敗や欠勤、遅刻などにたいして減給などのペナルティーを課すことを認めていますが、その場合であっても、減給額は

  1. 1日の賃金の賃金の半額以内、あるいは、
  2. 1カ月の賃金の10分の1以内

に限られます。(労働基準法89条)

 また、減給をする場合は、あらかじめ就業規則(会社の規則)で、「(発注ミス等により)会社に損害を与えた場合は、これこれの減給をする」という条項が定められていなければなりません。

 5万円という額を「減給」と解釈すれば、1)1日の賃金の賃金の半額以内、2)1カ月の賃金の10分の1以内−−という範囲をあきらかに超えているでしょう。

 ですから、上司と交渉する場で、「労基法89条では減給はこれこれの範囲にきまっているので、5万円というのは不当だ」という話はできると思います。

会社の賠償請求権

 会社は、労働者にたいして損害賠償を請求することができるのでしょうか。

 労基法第16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償を予定する契約をしてはならない」とさだめています。

 あなたが雇われるときに会社が提示した「雇い入れ通知書」(労働条件や契約条件が明示された書類)や「就業規則」(会社の決まり)などに損害賠償等の条項があったでしょうか。とくに、「××のミスをした場合は、○○円の賠償をすること」というように金額が明示されている場合は明確に労働基準法16条違反です。というのは、××のミスで実際の会社の損害額が1万円しかなかったのに、あらかじめ5万円の賠償をすると規定されていた場合、労働者は不利益をこうむることになるからです。 

 ただし、労働者にとって法律的に不利な点としては、過去の行政通達で、「損害賠償の金額を予め約定せず、現実に生じた損害について賠償を請求することは、賠償額の予定でないから差し支えない」(昭22.9.13発基第17号)という考え方がだされています。

 今回のケースは、実害額をそのまま請求しているので、この通達に合致するかもしれません。

 しかし、かりにそうであったにしても、今回のケースでは、事前にちゃんとした教育を受けていないので、上司に指導・監督責任はあるはずです。また、発注そのものはあなたがおこなったかもしれませんが、その行為は会社としておこなったものですから、上司のみならず、営業担当者も価格交渉をするなり、会社全体として相当の努力をするのは当然です。

 なお、会社と今回の問題で談判する場合、会社側に損害賠償の請求権があることをこちらから教えてあげる必要はありませんね。

<相談者からの返信メール>

 ありがとうございました。インターネットという恩恵を、今回程感じたことはありません。

 さっそくアドバイスいただいたことを参考に自分の考えを整理し、会社に今回の賠償請求に一切応じることはできないということをつたえました。すると所長から連絡がはいり、なんと今回の5万円は所長自身と営業が折半で負担するかわりに、退職願いにあった12月初旬といわず二、三日中に辞めていいいう勧告をうけました。

 ここまできて今度は解雇処分にしたいという考えのようです。

 上司はこれまで、「損害額の5万円は会社で負担していいのだが、そうなるとあなたの能力を問われることがガマンできないので、本社にはこのことは報告できない」などと、うまいことをいっていました。しかし、本音は、このことが本社に知られれば、自分たちの管理能力が問われるからだったのでしょう。結局、所長は自分達で金を払えば済むと考え、賠償請求にも応じられない部下は即刻解雇という恐ろしい魂胆のようです。

 もちろん、このような賠償請求に応じる契約書などはじめから存在しませんでした。

 この会社では、「自腹」による弁償のみならず、歓迎会においてのセクハラをはじめ、仕事上における複数の疑問は驚きと驚異に満ち溢れていましたが、アドバイスのおかげで、今回の弁償は支払わずに済みました。きっと、ここまで突っ込んでくる人間は始めてだったので、あっちも焦って早いうちに芽は摘んだ方がいいと思ったのでしょう。

 この世には実に不可思議な会社が実在するものです。こんな無茶苦茶な会社に貴重な時間は費やせません。今日付けでこの会社とはお別れです。

2000年11月/「労働通信」ホームページへの相談事例より

 

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