「労働通信」2004年5月号

 

 景気が回復し、年率換算すればGDP七%成長に達するといわれている。だが、それはおもに外需にささえらえたものであり、国内では一部の大企業だけが一人勝ちし、貧富の格差の拡大、企業間の格差拡大、都市と地方の格差の拡大がすすんでいる。
 そのなかで、現場では何がおこっているかを投稿していただいた。

何も闘わなかった労組が動き出した

自動車産業労働者 森 忠雄 

 自動車産業は、トヨタ、ホンダ、マツダ、いすゞなど大手五社のうち業績不振にあえいでいる三菱自工をのぞき、軒並みに業績を回復し企業収益をあげている。これは、北米市場や中国市場への投資と輸出の好調によるものである。この景気の回復に刺激されて自動車総連は、「春闘」における賃金交渉に積極的にのりだしている。そのこともあってか、それぞれ労組の下部組合員の意識は活性化しはじめている。

 自動車大手の二〇〇四年の「春闘」の賃金交渉は、日産労組が年間一時金を要求どおり、過去最高となる六カ月の満額回答であったのに続き、ホンダは前年実績を〇・一五カ月も上まわる六・五五カ月を獲得している。トヨタでは、一時金(五カ月+五三万円)の満額回答をかちとり、マツダは一時金五・三カ月の満額を獲得している。しかし、自動車総連の今「春闘」の特徴は、要求を一時金要求にしぼって賃上げ要求をとりさげたということである。

 私が所属する大手のA社の労組では、「春闘の要求案が提出されました」と昼の休憩時間にテレビのニュースで放送された。その時点では、職場には要求案の提示さえもされておらず、職場討議は当然おこなわれていない。食事中の労働者は、目を丸くして「どういうことなのか」とおどろいたようだが、ニュースのアナウンサーによって「執行部案がまとまった様子です」と訂正された。職場討議では、報道の影響なのか「去年と同様の要求でたたかう気があるのか」、「満額でればよい方だ」など、以前より執行部への批判的な意見がおおくだされた。

 後日、ある職場委員は、「執行部への批判は職場だけでなく、代議委員会でもこの要求で前年度より成果が得られたのかなどの意見がだされた」という話をしていた。A社の労組代議員はたいてい職制がかねることがおおく、執行部や管理職に批判的な意見や態度をとることはほとんど考えられなかった。職場や代議員の状況を反映してか、団体交渉を迎えるにあたって、闘争体制の準備をおこなうよう執行部より職場に指示がおろされ、「スト権投票の名簿作成」までことはすすんだ。結果は、すんなり「満額回答」という何十年ぶりかの状況がつくりだされた。

 しかし、職場では「満額回答」によろこびの声をあげるものはほとんどいなかった。満額といっても、昨年の回答とおなじように「ベア・ゼロ」、「ボーナス〇・三カ月分のアップ」である。これでは、本年度から完全成果主義賃金の導入とひきかえに実施される「定期昇給の廃止」、「給料制度の移行にともなう給与補填者への二五%ボーナスカット」の損失をおぎなうのがやっとである。率直によろこべないのは、実質賃金がさほどあがらないと感じてのことであると思う。

 だが、異例の満額回答は対外的にはかなり影響があり、知人に会うたびに「A社はもうかっているのですね」「おおくもらうのでしょ」と声をかけられる。「そうでもないですよ」とこたえたが、企業イメージはアップしているのではと思う。

 二〇〇四年の春闘では、代議員の意外な一面を知ることとなり、実際を知ることの大切さを改めて実感した。そして、職場から何をいってもムダと評価されている執行部ではあるが、ここ最近「職場環境の改善」には、職場からの意見を聞きいれるようになっており、組合員から執行部の動きが評価されている。

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