『労働通信』2003年11月号


 いま、小泉構造改革の一環として、「地方分権」や市町村合併がすすめられ、明治以来の中央集権的な国家体制が大きく再編されようとしている。それは、住民や自治体で働く労働者に何をもたらすのか、これにたいしてどのような方向でたちむかっていくべきなのか――シリーズ「構造改革」マンダラは今回、この問題にいくつかの角度から検討をくわえてみた。

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「平成の大合併」。各地でこんな言葉が聞かれる。「明治の大合併」「昭和の大合併」につづく、三度目の市町村合併の大きな波がきているのだという。

 ここにとりわけ強力なインパクトをあたえているのが、昨年一一月に地方制度調査会の副会長である西尾勝氏(国際基督教大学教授)が発表した私案・「西尾プラン」である。

 これまでも政府は、「市町村合併特例法」という法律によって、合併をすすめる市町村にたいして財政上の優遇措置をとってきたわけだが、「西尾プラン」では、この特例法の期限が切れる二〇〇五年三月三一日までに合併しなかった小規模市町村たいしては権限を大幅に縮小するなどの強制措置を講ずべきであると提言したのであった。これまでは、あくまでも「自主的に」合併をすすめることを建前としてきたが、今後はなかば強制的に合併をさせるという内容である。地方制度審議会の一部の委員からは、一万人未満の自治体をすべて合併させ、町や村をすべてなくしてしまおうといった意見さえでるほどである。

地方分権の一環

 政府がここまで強引に市町村合併をすすめようとしている背景にあるのが、いわゆる「地方分権」の動きである。

 この「地方分権」の基本方向として、二〇〇〇年四月に「地方分権一括法」が施行された。それは、これまであいまいであった国と地方自治体の役割分担をはじめて明確にし、国は外交や防衛など「国際社会における国家としての存立にかかわる事務」や全国的に統一してすすめることがふさわしい行政などに専念し、地方自治体は「住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を担う」という位置づけをおこなうものであった。そして、住民に密接した事務・事業の権限を国から地方へと移譲していくことをうちだした。

 このことは、地方自治体が独自でおこなわなければならない事業がふえることを意味する。そのため、地方自治体の新たなあり方を審議検討するものとして第二七次地方制度調査会が発足し、今年五月にはその「中間報告」が首相に提出された。

 それは、市町村を「地方分権」の「担い手」としての「基礎自治体」と位置づけ、ここに国や都道府県からの権限委譲をさらにすすめ、その規模や能力を拡充強化していくことが必要であるとしている。そして、そのためには「基礎自治体」が、「地方分権の担い手にふさわしい行財政基盤」をもたなければならず、「平成の大合併」がぜひとも必要であると提言しているのである。そのほか「中間報告」では、府県連合や道州制の導入も検討していくことをうちだしている。

三位一体の改革

 「地方分権」・市町村合併と連動してとりざたされているのが「三位一体の改革」である。「三位一体の改革」とは、@国から地方への補助金を廃止・縮減し、A地方交付税も削減し、Bこれにともなって、国税から地方税への税源の移譲をおこない、地方自治体の課税自主権をつよめる――というものである。ここには、市町村合併をつうじて地方交付税交付金を減らしていくとともに、合併後の自治体の財政基盤を強化するねらいがこめられている。

 問題は、国や地方をつうじる財政危機のなかで、予算の削減がすすめられることである。二〇〇三年六月に発表された「骨太方針・第三弾」では、二〇〇六年度までに事務事業の徹底的な見直しにより補助金をおおむね四兆円廃止・縮減するとともに、地方交付税の縮小のため、@地方公務員を四万人純減する、A投資的経費を九〇年〜九一年の水準を目安に抑制する、B一般行政経費を現在の水準以下に抑制する――などの方針がうちだされている。こうした見直しは、住民サービスの低下へとつながるものである。

住民のなかでは

 市町村合併をめぐっては、メリット、デメリットが議論されている。

 メリットとしては、小規模な自治体ではできないような行政サービスの高度化・多様化が可能になるとか、広域的な視点にたった行政ができるとか、行政の効率化がはかれる、町のイメージアップにつながる、といったことがいわれている。

 デメリットとしても、つぎのいくつかの点があげられているが、とくに地方の自治体ほどデメリットがおおいようである。

 1、市町村合併で自治体の規模がおおきくなることによって、住民と行政との距離がひろがってしまうこと。わかりやすい例は、議員定数である。(カコミ記事1参照)

 議員定数の削減は、「むだ飯」を食っている議員の歳費を減らすとして歓迎される傾向もおおいが、住民自治の観点からみれば、小さい自治体ほど地域の代表者を議会に送り込むのが難しくなることを意味する。

 2、合併によってそれぞれの市町村でとりくんできた独自の施策が平準化されてしまうこと。合併にあたっては、「負担は低く、サービスは高く」が原則となっているが、財政がきびしなかで、かえって「負担は高く、サービスは低く」となってしまう危険性がある。合併により、自治体職員の人員削減や行政サービスの低下も懸念される。とくに小学校・保育所の統廃合や、公共料金の引き上げなどの可能性がある。

 3、地方においては地域経済を萎縮させること。産業がすくない地方の市町村においては、市町村の財政が雇用の面でも投資の面でも地域経済に大きな役割を果たしている。このなかで、合併がすすめば、おのずと地域の経済を萎縮させ、そのことによって税収が減り、さらに財政が悪化する可能性もある。

 4、合併時の財政優遇措置がかえって後年の負担をふやすこと。政府は、合併をうながすために、合併した自治体は、合併後一〇年間は事業費の九五%を地方債でまかなうことを認め、さらにその償還時には元利償還金の七〇%を普通交付税で措置するとしている。つまり、合併に伴い必要となる経費のうち、当面は五%しか負担しなくてもよく、のこり九五%の借金もそのうち三〇%しか返さなくてもよいというものである。だが、膨大な数の合併件数と国の財政状況を考えたとき、はたして公約どおり七〇%の借金免除が可能かどうかは疑問である。

なぜ地方分権か

 では、この時期、なぜ「地方分権」がいわれだしてきたのか。

 日本では明治いらい、中央政府が都道府県・市町村を指令して動かす強力な中央集権的な体制がとられてきた。とくに戦前の地方自治体は、内務省のもとにおかれ、徴税、義務教育、徴兵などの事務をおもな業務としてきた。都道府県の知事も内務省からの任命であった。

 戦後は、いちおう地方自治制度が拡充強化され、都道府県知事も住民の選挙によって選ぶことができるようになった。しかし、「三割自治」という言葉があるように、地方自治体の財政のうち七割が国からの補助金や地方交付税に占められ、地方自治体の事業も大部分が国からの機関委任事務となり、地方が独自の財源で独自の施策を実施する余地は一部しかないというのがこれまでの実態である。かりに、革新系が首長になっても独自の施策をとることは予算面でかなり制限される。(カコミ記事2参照)

 このように明治以来、日本の行政組織が中央集権的な仕組みになってきたのは、上からの強力な産業政策や国土・都市づくり、インフラの整備などをつうじて、資本主義を急速に発展させ、国内に産業をおこし、市場の開発をうながすためのものであった。とくに戦後においては、ばく大な国家資金が地方自治体をつうじて、さまざまな会館、施設、学校などの「ハコモノ」や道路、工業団地などの建設についやされてきた。

 だが、こんにちではこうした中央集権的な国家体制ではたちゆかなくなっている。それは次のような問題をうみだしているからである。

 1、いわゆる「ハコモノ」型の地方行政が、国家財政の危機を深刻化させ、七〇〇兆円もの赤字(国民一人あたり六〇〇万円)をうみだしていること。

 2、利権に政治家・行政・企業がまとわりついた「利権政治」が横行し、あいもかわらず役にもたたない「ハコモノ」ばかりをたてて、地方財政をさらに悪化させ、住民サービスがさらに犠牲にされる事態がうまれていること。

 3、日本の独占資本が多国籍企業化して、従来の製造業などの生産拠点を海外へシフトし、国内産業はITやバイオなどの先端産業や金融、サービスなどを中心に再編しようとしており、国家による大規模なインフラ整備が不要となっていること。

 4、経済のグローバル化がすすみ、日本の多国籍企業が全世界に進出するもとで、中央政府は外交・防衛や国家戦略にかかわる分野――とくに日本の多国籍企業の利益をまもる活動――いいかれば侵略体制に専念する必要がつよまってきたこと。

 こうした背景のもとで、政府はいわゆる「地方分権」をすすめようとしているのである。

 とくに財政面でみると、政府は地方へ回していた財源を削減し、首都圏をはじめとする都市部の再開発に重点的に投入していこうとしている。「西尾プラン」を発表した西尾勝教授は「今の市町村合併の震源地は国会議員だ。都民から、都会の税金が(地方交付税として)地方に行っていると批判され、都市部の選挙で敗れた政治家が要求して平成の大合併に着手した」と発言している(昨年一一月の日本自治学会の研究会)。地方交付税は、法人税や所得税、酒税、消費税などの一部が財源としてつかわれているが、東京都の場合、都内の企業がおさめた所得税のうち約二兆円を地方交付税にまわしながら、都は地方交付税をうけていないため恩恵がないというのだ。

 日本経団連が今年一月に発表した「活力と魅力あふれる日本をめざして」と題する提言(いわゆる「奥田ビジョン」)でも、「国・地方自治体の財政事情がきわめてわるいことを考えると、公共投資の分野を戦略的に重点化するとともに、地方都市をふくめ都市に民間投資をよびこむ政策を一貫性あるかたちで推進することがもとめられている」とのべている。いいかえれば、地方での公共事業などはきりすてて、各地方がきそって、都市部を中心に企業がITやバイオ、金融を中心とした投資をしていけるような環境作りをすすめる方向をめざすのが、こんにちの地方分権の狙いだといえる。

「中央に物申す」自治体

 このように、こんにちすすめられている「地方分権」を一言でいうならば、多国籍企業につごうのよい地域づくりにほかならない。また、有事法制では、「有事」の際に自衛隊への協力を拒否する自治体にたいしては、首相みずからが代執行で、職員に業務命令を出すことができるなど、地方分権とは反することも規定されている。

 とはいえ、中央集権から地方分権へという流れは、資本主義の発展段階に対応して、さけることのできない流れとなっている。問題は、この「地方分権」が、おおくの住民の犠牲のうえですすめられようとしていることである。

 同時に見ておかなければならないことは、「地方分権」の流れのなかで、長野県の田中県政の誕生にみられるように、地方から中央に「物申す」自治体を生み出すような地方の独自の政治的な動きがおこっていることである。今後、地方への権限委譲やひも付き補助金がなくなれば――独自の財源確保をどうするかという問題はでてくるが――地方独自で住民の要求に根ざした政策をもっと大胆に実現することも、可能性としては高まってくる。

 実際、各地の市町村合併の動きのなかでは、一部の「有力者」のあいだの密室協議でことをはこぶのではなく、ひろく住民に情報を公開し、議論を起こし、最終的には住民投票によって合併の可否をきめさせようという運動もおこっている。

 また地方によっては、住民がNPO活動などを通じて、地域の「まちづくり」や福祉の問題をとりあげ、行政などもまきこんで住民自身の手で問題解決をはかっていこうとする動きもうまれている。そこには、本来行政がおこなうべき福祉サービスなどを、NPOのボランティアを動員して安上がりにしあげてしまおうという行政側の意図も働いているが、それだけで切り捨てられない住民自治のあたらしい動きがあることもみておかなければならない。

 こうした「地方分権」の動きのなかで生まれつつある地方の人人の動きを調査し、これを労働運動とむすびつけて社会進歩の方向へと発展させていくことができるのかどうか、できるとすれば、どのような政策で実現していくのかを研究することは、今後の重要なテーマの一つとなってくるであろう。 

コミ記事1 合併により議員の定数はどう変わるのか?
 二〇〇三年四月に合併した静岡市と清水市の場合、市会議員の定数は旧静岡市が四五人、旧清水市が三三人で、合計七八人である。ところが、合併後、二年間の在任特例をへたのち定数は二二人減の五六人に削減されることがきまっている。しかも、合併後の選挙結果を予測すると、人口のおおい静岡市側の議員が圧倒的に有利である。どういうことかというと、両市の議員を前回の得票数で順番に並べ、上位から五六位までを当選するとみなすと、清水市出身の議員が三三人から一四人と半分以下に減ってしまうのにたいして、静岡市出身の議員は四五人から四三人へとわずか三人しか減らないのである。
(清水市の市民団体「合併通信」の調査より)

 

コミ記事2 革新系首長が財政面でどこまで独自色を出せるか?
 岡山県の金光町では、今年春の統一地方選挙で日本共産党の候補者が町長に初当選した。
 同町の予算は三五億円規模だが、そのうち独自の町民税でまかなえるのは一〇億円程度である。予算の使い道でも、義務的な経費である経常経費と社会保障費がそれぞれ三五%で、前向きの施策につかえる投資的経費は三〇%程度しかない。だが、この投資的経費にしても、たとえば学校の校舎を建てる場合は、国の補助金が九割+町の負担が一割(投資的経費から支出)で予算を組むなど、国の補助金とセットとなっている場合がおおい。町独自の施策を実施するための予算はきわめてかぎられているといわざるをえない。

 

<シリーズ>
構造改革マンダラ
@社会保障制度改悪・1(2003年3月号)
A社会保障制度改悪・2(2003年5月号)
B税制改革(2003年7月号)
C地方分権(2003年11月号)
D労働構造(2004年1月号)

 

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