『労働通信』2003年7月号
小泉内閣は、「構造改革」の一つの柱として教育基本法の「改正」法案を国会に提出しようとしている。多くの子どもたちは、「勉強がわかりたい」「人間として大事にされたい」「友達となかよくしたい」「一人立ちしたい」と願っている。こうした子どもたちの願いをよそに、小泉内閣は教育改革をいそいでいる。中央教育審議会がだした教育基本法「改正」の答申は、教育の「危機的状況」について、「青少年が夢や目標を持ちにくくなり、規範意識や道徳心を低下させている」「いじめや不登校、学級崩壊などの深刻な問題点が依然として存在している」と説明し、法「改正」の必要を唱えている。だが、教育基本法の条文をいじっても、現在すすんでいる教育荒廃を解決することはできない。
小泉内閣・文部科学省は、昨年の四月から学校五日制と新学習指導要領の本格的実施にふみきった。そのため、休みになった土曜日の授業を平日におしこむことになり、平日の授業・行事がびっしりつまって、子どもも教師もくたくたになっている。こうした状態では、どの子どもにも豊かな基礎学力を育てることはできない。小中学生は、学年によってちがいがあるが「授業がわかるもの」が四割から六割しかいないといわれている(二〇〇二年の『文部科学白書』)。
いま、文部科学省は、教育基本法の精神やほんらいの学校五日制の趣旨をふまえた施策をすすめるのではなく、逆に「ゆとりのない」教育内容を学校現場におしつけてきている。新学習指導要領では、学習強化ための時間数や必要な学習事項まで減らしている。小学校では国語、算数、理科、社会の四教科が、今までよりも五〇〇時間以上も削減されている。そのうえに、「習熟度別学習」という能力別学習を導入して、「優秀な子ども」と「そうでない子ども」の選別をすすめ、小・中学校から高校にいたるまでの通学区を撤廃し、さらに、民間の株式会社の高校をつくることを認めた。これでは、今ですら激しい受験競争がさらにひどくなっていくことになる。それは、一学校の中だけの競争にとどまらず、学校同士がおたがいに競争し、まるで商品を生産する企業が生き残りをかけて争うようなことになり、人間を育てる教育にはならない。文部科学省がすすめる「学力向上フロンティアスクール」事業の小中学校の指定校は全国で一六二三校になった。また、最近、東京都品川区教育委員会は、学力テストの結果について、中学校ごとの成績を公表することを決めた。
同時に政府・文部科学省は、「構造改革」と教育基本法の見直しとセットで「教育振興基本計画」なるものをうちだし、奨学金制度や義務教育費の国庫負担制度の廃止をすすめようとしている。
いま、日本経済は、不況のどん底に落ち込んでおり、リストラによる失業の増大、さらには賃下げ、税制の改革、医療制度など福祉の見直しなどによって、生活の苦しい家庭が増大している。こうした状況のもとでの教育基本法の「改正」は、経済力のない家庭は高い学費のために学校にいけなくなったり、地域によって教育に格差が生まれたりするなど、教育の機会均等の原則がくずされることになっていく。
さらに重大なことは、「改正」では「日本の伝統・文化の尊重、郷土や国を愛する心と国際社会の一員としての意識の涵養」と述べ、愛国心をおしつけ、「平和的な国家および社会の形成者」をそだてる教育基本法にその目的をかえようとしていることである。この方向は、「皇国史観」(カコミ記事参照)にもとづく国家観とその思想を基礎にした日本国民の統合をめざすものである。政府がかつての侵略戦争を「正しかった」とする歴史教科書を子どもにおしつけ、「忠君愛国」を柱にしている教育勅語を賛美するような教育の方向をうちだしているのはそのためである。すでに小学六年生の通知表の社会科の評価項目に「国」や「日本」を愛する心情を盛り込んでいる公立小学校が、全国で一一府県二八市町村の一七二校にのぼった。(五月三日『朝日新聞』より)
最近、小泉内閣はアメリカのイラクへの侵略戦争を支持し、「北朝鮮の脅威」などをふりまいて、有事法を成立させた。さらに、憲法を改悪しようとしている。教育基本法の「改正」はこれらと深く関わってすすんでいる。
地域によっては、教職員と市民が共同で「改正」反対の集会を開催している。わたしが所属している組合支部では、最近おこなわれた支部大会で「改正」反対の決議をした。しかし、地域や学校現場では、残念ながら、教育基本法の「改正」について、十分、論議されているとはいえない。学校現場の猛烈な「多忙」という不利な条件もあるが、全国の教職員組合の宣伝が不十分である。
われわれは、歴史を正しく発展させる後継者の育成のために奮闘しなければならない。