『労働通信』2003年5月号
郵政公社発足で賃金にも「民間的手法」の導入へ |
四月、郵便局は国営の新たな郵政公社として「民営化」にむかって荒海にはなたれた。 郵政公社は今後四年間(中期計画)で郵便事業を五〇〇億円、簡易保険を三兆九〇〇〇億円の利益目標をかかげている。しかし、株式市場で運用している郵便貯金と簡保資金の含み損は、昨年九月に約七兆五〇〇〇億円以上にふくらんでいる。歴史ある郵便システムは、既存物流の「過当競争」にさらされている。
公社を前にした職場では、赤字基調から脱却するため、全国的な郵便の引受物数の減少(前年度比二・三%減)にあわせて大幅に人員が削減されていた。ある局では非常勤労働者がその代替として配置されたが、それでも仕事量にたいして約三○%たりない状態がつづいている。
公社の経営陣のおおくは民間から起用された。総裁に商船三井、副総裁にはトヨタ自動車など。キャッチフレーズは「真っ向サービス」で、仕事の効率化とサービス強化で収益改善をすすめる。全国一律五〇〇円の新小包や、利用者の生活時間にあわせて不在時の郵便小包の配達時間を午後八時から九時まで延長。翌日配達の範囲も拡大させる。郵便貯金のATMの二四時間サービスを地域的に拡大。コンビニの民間ATMと提携など事業改革に着手する。こうして小泉首相の「構造改革」は郵政事業の公社化のなかで具体的に労働現場で実行されようとしている。
郵便を中心とする事業改革のなかでは、「生産性向上」を重要な柱としている。当局は「公社になれば郵便局で施策を練ることができ、上申してOKがでればやりたいことができる。責任はついて回るが自由度は拡大する。費用対効果を念頭において寸暇をおしまず業務にはげめ」と労働者にハッパをかけている。
こうした当局の自信ありげな態度は、昨年末労使が検討して確認した「人事制度改革」とともに、それとリンクした「給与制度改革」の「基本的考え」からだされている。
事業庁の案での人事制度改革とは、つぎのようなものだ。
●総人件費の拡大は見込めない状況だから能力・実績にもとづく人事制度とする。
●納得性を重視した人事評価制度をおこなう。
また、課長や局長などにみずから立候補できる「志願制昇任選考システム」なるものも導入されようとしている。
給与制度改革については、人事制度とリンクして、「年功要素(定期昇給)を縮小し、能力・実績を重視した手当制度への見直しをおこなう」というものである。たとえば個別業績や三事業個別業績をボーナスに反映するなど民間企業の手法にあらためる。
しかし、これらは実質的には、高齢職員、病弱職員、非正規職員の権利などの弱者をきりすてていくことにならざるをえない。どんなにきれいごとをいおうが、能力・実績評価は職制の裁量で降任・降格がおこなわれ、必要でなくなればいやおうなく退職強要もまかりとおる職場になっていく。自己評価制度にいたっては、個個の要求や権利の主張などを圧殺し、組合の団結破壊につながるしろもろである。みおとしてはならないことは、この「人事制度・給与制度」が短時間職員、パート、非常勤労働者(現在一○万人をこえている)などの低賃金労働者の存在のうえに遂行しようとしていることである。
労働組合の全逓本部は、このような「グローバルサービス」の変化にたいしては「事後対処」方式(実施後問題があれば検討する)で対応を考えており、現場の労苦に鈍い反応をしている。全逓中央委員会では「事業庁案には不明な点がおおい」としながらも、基本的に事業庁の考え方を容認しており、組織機構、会計制度、人事制度、意識を「改革」しなければならないと言っている。
近畿の職場では、中央本部の方針、考え方に納得できないと反発する意見がおおい。反対意見では、「本部は信頼がだいじだといっているが、いまの管理者にはまったく信頼はない」や、「正当に評価されれば良いがそうなる要素はすくない」「営業をしていない、あるいはよく休む職員は、これからがんばって仕事をしても結局は先入観で評価され、人の主観で賃金格差がうまれるだろう」と、競争主義の公社におおきな不安をいだいている。しかし、逆に「やる気さえあれば変わる。これで職場は活性化する」あるいは「官僚的な管理者に変わり、業務をよく知る信頼できる人が管理につけるようになる」と期待感をもつ組合員もすくなくない。
ひとり郵政だけがいまの「規制緩和」「競争原理」の資本主義情勢から逃れることはできない。問題はそのなかでいかに無用な競争や理不尽な「合理化」をさせないようにするにはどうすればよいのかを考え続けていくことであるといえる。