BSEと農業−町長のなり手がいない農村

『労働通信』2002年5月号


 BSE(牛海綿状脳症、いわゆる狂牛病)の調査検討委員会は、四月二日に農水相・厚労相に報告書を提出した。

 農林水産省や厚生労働省は、狂牛病問題について九六年以来のWTOやEU科学委員会による日本政府にたいする警告を無視する無責任な態度をとりつづけた。その結果、あいついで三頭の狂牛病感染牛が見つかり、畜産関係や社会に大混乱をあたえてきたことで「農水省に重大な失政があった」、「政策判断のまちがい」、「消費者保護軽視の体質」としてきびしく非難されている。

 BSE問題は、いまだに消費者に根深い不安を与えて、畜産農家の経営を圧迫している。それは政府・独占資本によるたえまない農業・農民生活破壊に拍車をかけることとなっている。山口県のある畜産農家の話を聞いてみた。

拡大する風評被害

 私のうちでは、現在五頭の親牛がいるが四年間で一〇頭にする予定だ。そのため、昨年、半額を補助してもらい一一六万円かけて新しい畜舎を建てた。狂牛病による風評被害も、肉骨紛の全面禁止によりこれで終わるかもしれないと思っていた。しかし、その後の雪印や経済連までが商品の不正問題をおこしていることがあばかれ、食べ物にたいする世間の不信が高まり、ますます悪い風評をあたえてしまった。

 政府は、昨年一二月からBSE問題の補助金として畜産農家に対して一頭あたり均一で四万円の補助金をだすようになった。しかし、BSE問題以前には乳牛の廃牛でも一〇万円から二〇万円でひきとり手があったのに、いまはタダでももらい手はない。こうなったら県庁にでももっていって、つないでおくしかない。事実、廃牛を捨てた事件が熊本以外でも二カ所でおこっている。

 BSE問題は、脳みそ、脊髄、目、腸の一部以外の肉は問題がないとされている。また、これまで狂牛病に感染しているのは乳牛だけである。乳牛の子は生まれて一週間は親の乳で育てるが、その後は搾乳のため親の乳を子牛に飲ませない。だから子牛は五カ月ぐらいまでは人口乳で育てることになる。その人口乳のなかにカルシュウム分を必要とするので肉骨紛をまぜていた。人口乳をつくっていたある会社の製品のなかに汚染された輸入品の肉骨紛が混ざっており、それを食べていた千葉、北海道、群馬の乳牛の中から汚染牛がでたのである。昨年自分のところで分娩した親牛が翌日に死因不明で死んだ。子牛には仕方がないから一週間を牛乳で、五カ月までは人口乳で育てたが狂牛病汚染の肉骨紛を混ぜた会社の製品は使う気になれず他社の製品を使用した。

 食べ物にたいする世間の不信がいっそう高まり、食の安全に対して何を基準にすればよいのかもわからなくなっている。そうしたこともBSE問題に追い討ちをかけているのが現状だ。

市場価格も低迷

 BSE問題のために子牛の市場価格が大幅に下がった。この三月の競り市に出した子牛は三三万円であった。BSE問題からは一〇万円から一五万円安くなっている。昨年は六頭売ったが、一頭一〇万円の値下がりにしても六〇万円の損失になる。餌代分ぐらいが消えてしまう。競りの売値が全国平均で三五万円を切ったら差額に対して助成金がもらえるようになった。畜産農家は、安定基金に入っている。その基金からも差額に対する助成金が出る。

 肥育農家は、競り市で子牛を五〇万円で買ったら、一八カ月から二〇カ月肥育して、その間に餌代など二〇万円をかけて通常は倍の価格の一〇〇万円で売れるようにする。ところが、いまでは競り市で子牛を三五万円で買い、肥育してからの売値が六〇万円にしかならない状況だ。だから生産牛も肥育牛もBSE問題で大きな打撃となっている。BSE問題がおこってから畜産をやめざるをえない人がでている。政府は畜産を継続させるために一軒に一万五〇〇〇円の補助金を出すようにはしたが効果はあまりない。わたしは、最近育牛をやめる人から一頭を一万円でひきとった。

畜産だけではない

 農業は、なにをやってだめだ。近年の米価は、一万三〇〇〇円から一万二五〇〇円というように、毎年一俵五〇〇円ずつさがり、一万円になるまで下げるといっている。低米価は農家にとって深刻な打撃となっている。政府がアメリカの圧力に屈し、必要のないコメを年年大量に輸入しているからであり、またコメが市場まかせにされ、大手スーパーなどの量販店が乱売合戦をやり、資本力にものをいわせてコストを無視した買いたたきをやっているからである。

 農協は、以前は農薬を使って反収を増やせと指導していたが、いまでは農薬の使用を押さえて、一反(一〇アール弱)あたり六俵に押さえるように指導している。ブランド米のコシヒカリでも三〇%までは他の品種を混ぜて売ってもよいとなっている。

 近年コメづくりで味のことをよくいうようになっているが、かつては味のことをあまりいうようなことはなかった。コメの味を左右するのは天日干しをするかどうかによる。以前はバインダーで稲を刈り、ハゼにかけて天日で干していたから味もよかった。新潟の米は高いハゼに掛けて半月ほど天日にかけるから味がよい。ところがコンバインの普及で稲刈りと収穫を同時にやるために生乾燥するようになった。それもマニュアルどおりなら二日間おいてから乾燥機にかけるのだが、各農家で袋に詰めたモミを二日間もつんでおけばモミが蒸れて黄色くなったり胴割れになる。だから手をぬいてすぐ灯油を炊いて乾燥機にかけるようになっている。味が落ちるのは当然だ。

 最近は農協のライスセンターまかせになっているから経費がかかり、おまけに米価は下がりっぱなしで赤字が増えるばかりだ。固定資産税が一期一万円で、基盤整備(コンバインのような大型の農機具が使えるように、小さい田んぼを統合したり、農道をつけるなどの圃場の整備)をしたので毎年七万円を二五年償還で払っている。農家の生活はきびしい。

 農協合併がすすみ、近くの支所がなくなったために本所までいかなければならない。となりの町の農協はまだ支所をのこしているので、その方が近いからそこに要る物を買いにいくようにしている。農協のサービスも悪くなり、農機具の修理でもなかなか来てくれない。

町長のなり手もいない 

 農村の荒廃はひどく、離農者が増え農協の組合員をやめる人がおおい。町長にもなり手がないので無投票になっている。政府も農協も非常に無責任になっている。エイズ問題、C型肝炎問題、このたびのBSE問題など危険性がわかっているのに問題がおこってとりかえしがつかない状態になってからはじめて重い腰を上げるということをくりかえしている。それらに共通しているのは腐敗した官僚行政の危機意識の欠如だ。

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