『労働通信』2002年3月号
小泉政権は、今通常国会で有事法整備をいちだんとすすめる決意でのぞんでいる。一月二二日におこなわれた自民党国防部会・安全保障調査会・基地対策特別委員会合同会議(国防関係合同会議)では、有事法制が対象とする事態について「武力攻撃にいたらない段階から適切な措置をとることが必要」という認識をしめし、実質上日本みずから外国に先制攻撃する可能性を認め、戦時体制を容易に発動できる道筋を確認した。そのなかで久間章生安全保障調査会長は、「すでに検討が終わっているものからすみやかに処理するべき」と、検討が終わっている第一分類(防衛庁所管の法)、第二分類(他省庁所管の法)を先行してでも法整備をすすめていくべきとの考えをしめした。また、第三分類(所管省庁が明確でない法)についても検討状況をはじめて報告し、@有事における住民の保護、避難または誘導を適切におこなう措置 A有事における民間船舶および民間航空機の航行の安全を確保するための措置 B有事における電波の使用の制限にかんする措置 Cジュネーブ諸条約等の実施にかかわる国内法制――について言及し、今国会での有事法制の成立につよい意欲をしめしている。
今回あきらかにされた第三分類の内容をみても国民の権利を制限するのに十分な内容となっている。「住民の保護、避難または誘導を適切におこなう措置」については、そのなかで「関係行政機関等による総合的な対応」がもりこまれ、住民の保護、避難を口実に住民の強制移住や民間所有地の強制接収がおこなわれる可能性がある。「民間船舶および民間航空機の航行の安全を確保するための措置」は、実質的に民間船舶・民間航空機の航路・空路を制限し、軍事作戦を優先させるためのものであり、国民の自由な移動をさまたげるものでもある。「電波の使用の制限にかんする措置」については、自由な報道が制限され国民に情勢を客観的に判断させる機会を奪うことにつながりかねない。
政府・与党は二月三日、日本の安全保障の基本理念をしめす安全基本法の制定を断念し、かわりに関連法案整備の促進と手続きだけをもりこんだ「緊急事態法制整備促進法」(仮称)を今国会に提出することを決定した。しかし、実際は安全基本法の「有事の定義」や「理念」を明確にせず、今国会での論議をさけつつ実務面での有事法制の制定を着着とすすめようというのがねらいである。そして、すでに第一分類、第二分類の法制化を今国会で先行させることとなっている。
さきの国防関係合同会議で、有事法制を整備する必要性について「国の独立および主権ならびに国民の安全を確保するため、日本国憲法のもと、わが国にたいする武力攻撃に対処する体制をふだんからととのえておくことは、国としての責務」「有事法制の整備は、日米安保体制の信頼性をいっそう強化し、わが国の安全をよりたしかなものとするとともに、国際協調のもとでわが国の安全を確保していくうえでも重要」としている。
急ピッチですすめられる有事法整備は、危機的な状況にある日本経済ときりはなして考えることはできない。日本が資本主義国家である以上、この経済危機をのりきるためにはあらたな市場の開拓が不可欠であり、国内市場に望みをもてないいま、国外の市場獲得をねらうのは必然的な流れである。また、安価な労働力をもとめ海外に進出した多国籍企業の安定した利益確保も重要な要素である。そのためには日本にとって都合のよい政策をとる国、日本のいうことをすなおに聞く国をつくることが重要になってくる。その手段として武力を背景とした圧力がひじょうに有効であることはアメリカの政策をみてもあきらかである。もちろん、日本のこうした動きはアメリカの世界戦略の一環としてとらえることもできるし、事実、上述したように日米安保体制のいっそうの強化をめざしていることはそのことを裏づけている。
一月二四日のジュネーブ軍縮会議においてボルトン米国務次官は「米国の政策を単独主義か国際協調かと性格づけるのは無駄なこころみだ。きわめてかんたんな話で、それは『米国のため』の政策だ」といいきり、「国益優先」を貫徹することを宣言し、米ミサイル防衛構想に反発する中国の「宇宙非軍事化条約」交渉開始の要求を一蹴した。米国務次官のいう「米国のため」はイコール「米独占資本のため」であり、けっしてアメリカ労働者・勤労者のためではない。
これらのことからもわかるように「国民の安全を確保するため」の有事立法のほんとうの目的は、独占資本が牛耳る多国籍企業の利益をまもり、海外市場を確保し、東南アジアを中心に自国に都合のよい国をつくり、中国をはじめとする自国に都合のわるい社会主義国を牽制するためであり、独占資本の利益のために全国民を戦時体制へ総動員することにある。かつて海外の日本人をまもるという口実でおこされた資本の利益獲得戦争を忘れてはならない。
有事法制の研究は、戦後まもなく秘密裏にすすめられ、一九七八年の旧ガイドラインと同時に公然化した有事法制研究によりいっそう加速した。そして、一九九七年の新ガイドライン合意を実効あるものにするために、一九九九年の第一四五国会において小渕政権は、非民主的な手口で、周辺事態法を中心とする新ガイドライン関連法をはじめ、国旗・国歌法、盗聴法、地方分権一括法等をつぎつぎと成立させた。戦争をおこなうのに必要な法整備は着着とすすんでいる。周辺事態法により国民総動員への足がかりをつくり、国旗・国歌法や教育基本法、また「つくる会」の歴史・公民教科書の承認により民族主義・排外主義をあおり、戦争を受け入れやすい国民精神の醸成をすすめてきた。さらに、盗聴法などの組織的犯罪対策関連法による反戦平和運動への弾圧をねらい、地方分権一括法と地方自治法改悪により地方自治体の有事にたいする権限を弱め反戦自治体をおさえこみ、中央省庁による中央集権の強化をおこなおうとしている。そして、今国会での成立をめざす有事関連法案は、周辺事態法をさらに強化し、国民総動員への法的根拠をつくろうとするものであり、最後の砦である憲法第九条の機能を停止させ、改憲の土台にのせようとするものである。
われわれは、かつて二度と戦争をおこさないことを誓った。半世紀前の戦争でわれわれに残ったものは、数千数百万労働者・勤労者そして幼い子供達の屍と一部資本家の莫大な利益だけではないか。ふたたび戦争への道を歩ませてはいけない。いまが行動のときである。