労働者の立場からのワークシェアリングを

『労働通信』2002年3月号

 二〇〇二「春闘」では、連合が統一的要求を提起できない状況の一方で、「ワークシェアリング」が大きなテーマとなっている。このなかでの労働者のたたかいの方向について考えてみたい。

賃上げ要求基準示さず

 今「春闘」にあたって、連合は具体的な要求基準をしめしていない。政府発表の実質経済成長率がマイナス○・九%の見込みであり、逆に失業率が上昇中とあっては「賃金カーブ(定昇など)プラスα」といった目標しかさだめることができなかったようである。

 鉄鋼や電機はベア要求を断念し、自動車や造船は要求をかかげるものの一〇〇〇円で、昨年の半分となっている。全逓など官公部門も「民間の動向をみて判断する」と、具体的な要求額はだしていない。

 ベア要求はしないかわりとして、「雇用確保」を優先した取組が中心となっている。といってもその内容は、「雇用安定協定」の締結を企業側にもとめたり、これまでの労使関係維持を確認するなどの程度で、積極的に企業側の人員削減志向へのたたかいをすすめるといった方針はあまりみあたらない。

 一方、財界の労務対策機関である日経連は、一月に発表した労働問題研究委員会報告で、「徹底した構造改革」をおしすすめることによって「高コスト体質の是正と雇用の維持・創出」を実現するとのべている。しかし、ベアをあきらめてまで連合が期待している「雇用安定」についての経営側の認識は「雇用過剰感がつよく、人件費負担のおもさに苦しむ企業はおおい」というものであり、賃金についても「国際競争力の維持」のため「これ以上の賃金引き上げは論外」として、「定昇の凍結あるいはみなおし」をおこなう考えである。

 さらに日経連は、労働市場の規制の撤廃とともに雇用形態の多様化・「柔軟なワークシェアリング」の導入を考えており、安上がり労働力の拡大は是正されることはない。

同床異夢のワークシェアリング

 今「春闘」のいまひとつの特徴は、労資双方から「ワークシェアリング」が提言され、社会的な注目をあびていることである。だが、その内容については、資本家・経営者と労働組合のあいだで思惑は大きくちがう。「ワークシェアリング」についても、つぎのような種類があるといわれている。

 @緊急避難型・中高年対策型――業績悪化に対応するため、「所定内労働時間」を削減して、社内でよりおおくの雇用を維持する。賃下げが前提となっている。

 A雇用創出型――失業者にあらたな就業機会を提供することを目的に、国または企業単位で労働時間を短縮し、よりおおくの労働者に雇用機会をあたえる。

 前者の例として、半導体製造装置メーカーのTOWAでは、生産が落ち込んでいることから「週休三日制」を実施している。これにともなって一日分の賃金はカットとなっている。会社側としてはいずれ半導体業界はもちなおすとみているため、そのためのつなぎとしてこうした時短を実施している。これもていのよい一種のリストラである。

 またこの種の時短・ワークシェアリングは雇用形態の改悪とむすびついている。日本郵便逓送では、臨時の短時間労働者が増えている。かれらのなかには、朝の五時半から午前中いっぱいは清掃局などで働き、午後二時から六時まで日逓で働く――といったダブルジョブをやっている労働者がおおい。これは、生活の面でも不安定であるし、将来の年金でも大きな問題が生じる。労災事故がおこった場合、一方の職では労災の補償を受けられるが、もう一方の職では欠勤扱いとなり、収入はまったくなくなってしまう。

 後者の「雇用創出型」としては、近年オランダでとりくまれているワークシェアリング――いわゆる「オランダ・モデル」が注目されている。これは、正社員(フルタイム)労働者とパート労働者の均等待遇を社会的に保障することを前提に、夫婦(男女)が〇・七五労働日ずつ働く(夫婦で一・五日)というものである。これによって、失業率はかつて一二%だったものが二%に低下するだけでなく、女性の社会進出がすすみ、なおかつ仕事と家庭の両立が可能となったとされている。

 だが、いま日本で現実に実施されている「ワークシェアリング」のほとんどは前者の「緊急避難型」である。個個の企業側の本音からすれば、雇用の危機意識がひろがっていることを利用して、短縮した分を賃金削減して、人員はそのままにするか、あるいは正社員をパート・アルバイト化して雇用を「拡大」することを考えている。

 連合は財界の動向について、「企業業績の好不調にかかわらず、一貫して賃金抑制をつづけていることこそ経済停滞の原因」とし、「こうした緊急避難措置が賃下げの手段として安易に提案されないよう」「その前提条件として、サービス残業をふくむ恒常的な時間外労働の削減がおこなわれるべき」「労働市場の規制緩和は、典型労働者をパートや派遣など非典型労働者におきかえ、総額人件費削減をねらう」ものであると批判している。もっともなことであるが、連合自身が企業の経営に参加してきたため、いまのような不況時になると、資本の攻撃にたいして手も足もでなくなる状況をつくってきたといえる。

労働者の立場からの時短・ワークシェアリングの要求

 現在の日本ですすめられているワークシェアリングが、資本のリストラ「合理化」の一環としてすすめられようとしているなかで、労働者の立場から、労働者の利益に合致した時短やワークシェアリングの要求を整理し、たたかいにしていくことは必要不可欠である。

 日本の年間労働時間は、二〇〇〇年で二二〇〇時間弱(サービス残業をのぞく)で、ヨーロッパの労働者にくらべ一・五倍はおおくはたらかされている。一方で、何カ月も職につけない労働者がいて、他方では過労死寸前の過重労働がしいられている。

 労働者の立場からの時短・ワークシェアリングのたたかいは、@よりおおくの労働者に雇用の場を提供し、A就業労働者には人間らしい労働と生活の条件、家庭生活を提供するという意義をもっており、社会保障制度をはじめとする社会のあり方とも大きなかかわりあいをもっている。

 具体的な要求課題としてはつぎのようなものが考えられる。

  1. 、解雇制限法の制定。判例で確立されている「整理解雇四要件」を法制化し、労働者との協議による合意のない解雇は認めない。
  2. パート、派遣などの非正規労働者にすべての面で正規労働者と同等の権利を保障する法律の制定。
  3. 失業対策をはじめ、医療、介護、福祉、教育などの社会保障制度の拡充。
  4. 違法なサービス残業の禁止・罰則規定の強化。週三五時間労働時間の法制化。

 ヨーロッパで三五時間労働制を実現するためには二〇年ちかくにわたる労働組合のたたかいが必要であったように(本誌二〇〇一年九月号参照)、右のような要求を日本でかちとっていくためには、労働組合の力量を強化し、社会の各層をまきこんだ大きなたたかいが必要となってくるだろう。

 今「春闘」の「ワークシェアリング」論議をきっかけにして、労働や社会のあり方、労働運動のあり方について討論をふかめていこう。

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