『労働通信』2001年7月号
すでに商業新聞の記事があきらかにしているように、郵政事業庁は三月末、郵便局につとめている本務者(正規職員)を一万二七四三人削減する一方で、短時間・非常勤職員を九六三六人増員するというリストラ「合理化」案を発表した。
この削減人数は二〇〇一年度から二〇〇五年度の五年間で達成するという計画であるが、毎年二〇〇〇人前後が非常勤職員にとってかえられるものである
九七年一一月に中央省庁再編を検討していた政府の行政改革会議(会長・橋本龍太郎首相=当時)は、郵政三事業のありかたについて、五年をめどに、@国営維持を前提に経営形態と機能をみなおす、A郵便貯金の資金運用部への預託制度は廃止し、完全自主運用とする、B郵政事業への民間参入をみとめる、といった最終報告を発表した。郵政族議員や特定郵便局長会が民営化に抵抗したことなどで、とりあえず中央省庁等改革基本法第三三条一項で郵政事業は「国営のあらたな公社」とさだめられた。
しかし、「第二の大蔵予算」といわれた財政投融資の豊富な資金をねらう財界などは、「ビッグバンにあわせて郵便貯金と簡易保険は分割・民営化に」「官業としての郵貯は不要」などはげしく郵政民営化論を展開してきた。こんにちでは、資本主義の危機が世界的にふかまっているなかで、グローバル経済の競争にいきのびるための構造改革、金融改革、規制緩和、そして郵政民営化をさけぶ小泉政権が登場している。
こうしたなかで郵政当局は、一方で「民営化で過疎化の局はきりすてられる」「料金の高低差をつけられる」などキャンペーンをはって、現状の国営と三事業一体の「強み」を宣伝し、「雇用と労働条件の確保」にむけて労使の枠をとっぱらって懇話会形式で公社存続の基盤をもとめている。他方では郵便の戦略的事業方針「郵便新生ビジョン(案)」をたちあげ、この機を利用して大「合理化」をやってしまおうとしている。
この「郵便新生ビジョン(案)」(以下、「新生ビジョン」)は、三月二二日に郵政事業庁の足立長官の「職員へのメッセージ」として提案された二七ページの文章である。しかし、たんなる一官僚の「私案」ではけっしてない。
足立長官は、「三月末提示に先立ち、提示させていただく。組合の担当中執の方方にはたいへんなご協力をいただいた」ときりだし、「ビジョン案は、管理者むけを意識したかなり詳細なものと、一般職員向けにはビジュアルでわかりやすい簡略版を用意している」とのべ、現場にビジョン案を徹底させていくことを表明している(ただし、人員削減の具体的データを掲載した詳細版は、管理者や組合の支部長クラスにしかおろさず、一般の労働者にはひたかくしにしている)。
新生ビジョンは、まず一定の情勢分析のうえに、こう記している。
「(新生ビジョンの目的は)独立採算のもとで効率的に事業の経営をおこなうことにある。より大量の郵便利用を確保し、郵便ネットワークでの多様なサービスを提供することで『なるべくやすい料金』を維持する。そのために職員の理解と努力をもとめる。こんにち、民間宅配事業者との競争、IT革命、顧客ニーズの高度化等の環境変化のなかで、郵便事業はもはや安定した需要はのぞめなくなっている。要因には、自由な業務ができない現行の法令下で、多様なニーズにこたえられず、民間との競争におくれをとっているなど。また、全国一律な運営で、非効率部分の収支が悪化しており、事業のあり方についてあらたなビジョンが必要である」……等等。
郵政事業庁が考えている新生ビジョンの具体的な方向性はつぎのとおりである。
第一は、「郵便事業の『聖域なきみなおし』を大前提にした中間管理機構や管理共通費等をみなおして競争力ある黒字体質へ転換する」を基本的戦略課題としている。
「コスト意識にもとづいて業務の合理化・効率化をすすめ」るなど、職員の自発的な効率的業務をうながしている。そして、「可能な仕事は非常勤化等をすすめる」といっているように、さまざまな職場、新企画へ非常勤労働者を投入して、かんたんに人員調整できるようにすることを考えている。業務回転優先の意識は労働条件などへの感覚のマヒとなってあらわれる。したがって、賃金をおおくえるために、労基法や労働組合のたたかいでつみあげた労働協約などによる労働条件を無視して、がむしゃらにはたらかされる状況もうまれかねない。
新生ビジョンは、黒字体質への転換の第一段階として、「平成一四年度予算概算要求を『収支均衡』で要求するため、今年度と来年度において各種の効率化・合理化施策を実施していく」とのべている。この点でいえば平成一三年度(二〇〇一年度)約二○○億円、一四年度(二〇〇二年度)約六○○億円を節減するとしている。また、平成一七年度(二〇〇五年度)までの削減目標は、必要な施策のための増加費約一〇〇〇億円にたいし、削減費は約四七○○億円となるみこみである。
人員削減一覧表 の年度別人減らし「合理化」の効果は約三七〇〇億円である。郵政事業庁は、「組合とも十分な意志疎通をとり、各種の効率化合理化施策への積極的な理解と協力をもとめたい」とのべている。
第二は、「各種の合理化施策を円滑に実施するため、とくに意識改革をふくめた職員教育と要員政策の二点を重点的にとりくんでいく」とのべている。
@職員教育については「予算主義から決算主義へ(結果として、より少ないコストで大きな成果をあげる)、定員管理から総労働力管理・総人件費管理へ(本務者・短時間職員・非常勤職員などのトータルコストを収益均衡で管理。集配運送費にふくまれる外部委託にかんするコストも考慮)、顧客第一主義(コストが増えても値上げはできない。価格は顧客が決めるもの)」の考え方を徹底する。
とくに「管理者訓練」を重視し、あたらしい郵便局長には「最高経営者」の自覚と責任をもとめている。現場管理職にも責任をあたえ、労働者の能力を発揮させるために「信賞必罰」の管理方針をださせていくとともに、一般職員にはOJT、チーム活動による相互研鑽(けんさん)をつうじて、あらたな事業展開をたえず模索していくような思考回路に「改造する」としている。
A要員政策は、中央労使間に「労働力構成の在り方等に関する労使検討委員会」(仮称)を設置し、「郵便事業における労働力構成のあり方」や「郵便関係職員の給与体系のあり方」「効果的な過員解消方策」「多様な人材活用方策」などを全逓中央とともにすすめようとしている。
▼内外過欠員調整等
現下の過員・欠員を調整・解消するため、都市部の内務過員局の内務から地方の外務欠員局の外務へ、本人希望を前提としつつ配転し、一定期間経過後に一定の条件にもとづき、内務への再配転をおこなう方策を検討し六月をめどに結論をえる。
▼要員政策を検討する場の設置
本務者・短時間職員・非常勤職員・再雇用職員等の職務分担と配置のあり方、要員および給与とのかかわり、効果的な過員解消方策等について、専門的に検討するため、現在中央労使間に設置している「要員の効率的配置等に関する労使専門委員会」を活用する。
第三に、「外務職員の集配ネットワークは、郵便事業の最大の財産であり、集配ネットワークを効率的に活用するのが郵便新生のカギ。集配業務は地域の情報収集にも貢献している。この能力が郵便の強みである」などと指摘して、業務のIT化、高度化をめざしている。顧客のニーズにあわせた午前中配達・営業集荷などの配達形態のこころみをおこない、新型区分機の最大活用と、配達情報入力用携帯端末機を全配達区へ配備して集配作業(外務職員業務)の機械化・情報化をすすめる。
また、「民間の運送会社との提携をすすめ、たえず輸送の品質を高めていきたい」としており、企業間のサービス競争にかりたてようとしている。
中心的課題は集配作業の非常勤化をいっそうすすめることと、本務者の作業能率と非常勤職員への指導力の向上であり、そのため能力、実績主義にもとづく処遇面での改革をおこなうとしている。
第四に、「以上を基盤とし、あたらしい公社のもとで、国民にはより良いサービスを提供し、職員には努力がむくわれる道筋を明示し、従業員満足を高めたい」として業務の成果をめぐった過酷な競争を職場にとりいれたいとしている。
「トータルマンパワーの高揚」の項では、「職員の生きがい・はたらきがいのえられる業務をめざす」としている。仕事をしっかりとおこなうのは必要であるが、その必要以上に顧客への営業(収益をあげる)をおしつけている。「積極的に顧客がかかえる問題の解決に貢献していく現場の人材が必要。本務者は直接収益の拡大をはかる役割と非常勤職員にたいする監督・指導の役割をこうじる」、そのため意欲・成果をあげれば出世や報酬がえられる制度を導入するとしている。
このように、郵政官僚と全逓中央執行委員会との話がすすんで、今回の新生ビジョンがかたちづくられた。全逓は本年度の定期全国大会議案において、「全逓がくりかえし主張してきた内容を随所にとりいれさせたもの」と評価している。しかし、本務者を非常勤職員にとってかえる大幅な人員削減と団結破壊をめざす新生ビジョンに、全逓本部が「雇用と労働条件の確保を大前提に対応していく」といってきたこととの矛盾への解釈はしめされていない。
さいきん、労働官僚は今回の「郵便新生ビジョン」の詳細版を暴露したビラなどがまかれていることに特別な危機感をいだき、一部では現場労組役員にたいしてビジョンの「回収」をもとめてきている。ほんらい、当局からの「合理化」計画がわかればただちに現場に知らせる役割が組合上部にあるが、恥ずかしくもなくそれを当局とともに「かくす」行為をはたらいているのである。
世界情勢・経済情勢が、グローバル化などによりおおきく変化していることは、必然的に郵政事業にも影響せずにはおかない。しかし、郵政事業の資本主義社会のもとでの階級的性質はかわらない。全逓労組幹部や当局が民営化にたいする「代案」を今回提示し、公企業のままではげしい「合理化」をおしすすめているからといって「公共性」が郵政事業にあるとはかぎらない。
資本主義のもとで郵政事業は、商品の流通や市場の拡大を円滑にすすめるうえで重要な位置にあり、独占資本とその政府による労働者と人民にたいする搾取と収奪、支配と抑圧の道具となっている。
資本家は、生産活動などで利潤をえるためには、生産現場で商品をつくるだけでなく、それを納品先や消費者に発送したり、見積書や注文書、領収書などをやりとりしたり、市場経済活動のためのダイレクトメールを送ったりしなければならない。郵便事業は、そのための通信、輸送手段としての役割をはたしてきた。また、貯金・保険事業は、世間一般から零細な資金をかきあつめ、これを国家の資金運用部に預託して財政投融資のおもな財源にあてており、資本主義の経済を調整し、各種の経済危機をさきおくりするための「ため池」・投資づくりの役目をはたしてきた。
これらの機能は、資本主義経済にとって不可欠のものであるが、一企業では負担できないほどの巨額の資金力を必要とするために、明治いらい郵便事業は「国営」として運営されてきたのである。
だが、金融ビッグバンやIT革命、情報・物流構造の変化、国際競争の激化のなかで、こんにち郵政事業の民営化がもちだされてきている。
郵政事業を公営にするか、民営にするかは国鉄や電電とおなじように独占資本の必要によっておこなわれる政策的なものである。そして民営化にともなってかならずだされるのは労働組合の弱体化と人減らしなどでの経費の削減である。資本家のあくなき利潤追求を暴露し、「新生ビジョン案」の本質をはたらくみんなの反撃でつぶしていくことが必要である。