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『労働通信』2001年7月号


米日の多国籍企業の利益守るため集団的自衛権にふみこむ

 小泉首相は、就任そうそうから「集団的自衛権」の行使や憲法の改正、靖国神社への公式参拝に意欲をしめしている。それは、日本のおおくの人人だけでなく、アジア諸国からの警戒感を高めている。

中国包囲網めざすアメリカ

 小泉内閣の「タカ派」的姿勢は、小泉氏の政治的信条からだけでとらえるのではなく、中国包囲網を形成しようとするアメリカ帝国主義のあらたな世界戦略や、アジア情勢の変化のなかでとらえる必要がある。

 いわゆる「冷戦」期のアメリカの軍事戦略のかなめは、ソ連との対決を全面におしだしたものであった。

 だが、ソ連、東欧の社会主義諸国の崩壊後、アメリカは「仮想敵」をソ連から第三世界へとシフトし、日本、ヨーロッパなどの旧来の同盟国との関係を強化しつつ、ロシアや中国をも「建設的パートナー」として、いっそうふかく資本主義市場にくみこもうとする戦略をとってきた。軍事面の重点は、「対ソ包囲網」戦略から、中東と朝鮮半島で同時に戦争がおこっても対応できる「二正面同時勝利戦略」へと転換した。そして、核兵器をはじめとする最大最強の軍事力を背景にしながらも、米軍兵力をある程度削減して、日欧の同盟諸国に負担増をもとめてきた。

 現大統領の父親であるジョージ・ブッシュが大統領在任中に、「多国籍軍」を動員して強行した湾岸戦争はまさにこうした戦略を具体化したものであった。それは、「冷戦」終結後の「新世界秩序」=すなわちアメリカの多国籍企業の利潤追求に有利な世界秩序をうちたてるために、アメリカの指揮棒にしたがわない国を「ならずもの国家」として、屈服させようとするものであった。

 だが、クリントン政権の末期から、ブッシュ政権の登場にいたる過程で、アメリカは「冷戦」終結後の世界戦略のあらたな転換をはかりはじめている。その内容は、戦略の重点をアジアへとうつし、イラクと北朝鮮を標的にした「二正面戦略」から、中国包囲網の形成をめざす「一正面戦略」への転換をはかろうとしていることである。

 二〇〇〇年五月にペンタゴン(米国防総省)が発表した『二〇二五年のアジア』と題する報告は、二〇二五年のアジア情勢を予測してつぎの四点をあげている。

  1. ヨーロッパにおいて「脅威」が解消する一方で、アジアにおいてあらたな「脅威」が登場する。
  2. ロシアと日本にとってかわって、インドがアメリカのあらたなパートナーとして台頭する。
  3. 朝鮮半島の統一は日本のあらたな民族主義の台頭をまねき、日本はアメリカとの真の同盟をとりむすぶか、独自防衛の道をすすむか、中国の覇権を容認するかの選択をせまられる。
  4. 中国は一貫してアメリカの競争相手となる。

 そして、「将来の危機にそなえるなら、アメリカはいまからアジアでのより実体あるプレゼンスを策定すべきだ」と提言している。

 さらにブッシュ新政権は、「ミサイル防衛計画」をうちだしている。それは、発射されたミサイルをレーダーで探知して、迎撃ミサイルでうちおとすというNMD(米本土ミサイル防衛)計画を地球規模にひろげようというものである。

 こうしたもとで、すでに九六年の「日米共同宣言」にもとづいて、あらたな日米防衛協力新ガイドラインや周辺事態法が制定された。さらに、米軍基地を撤去させたフィリピンにおいてもVFA(一時駐留軍協定)によって米軍の駐留が復活し、オーストラリアのクイーンズランドに米兵一万人が配備され、シンガポールにも米原子力空母用の埠頭の建設がすすんでいる。イランやユーゴなどを攻撃したアメリカの攻撃型潜水艦艇の配備も、かつては六〇%を大西洋に配備していたが、ここ数年は、大西洋と太平洋に半分半分となり、まもなく太平洋への配備が半数をこえるといわれている。それは、アメリカが韓国―日本―フィリピン―シンガポールなどをまきこんで対中国包囲網を形成しつつあることをしめしている。

アジアの情勢の変化

 このようなアメリカの戦略の転換の背景には、このかんのアジア情勢の大きな変化がある。

 一つは、ソ連、東欧で社会主義政権が崩壊するなかで、中国はひきつづき共産党の指導のもとで「改革開放」「社会主義市場経済」の路線にそってこの二〇年間、年平均一〇%をこえる経済成長をとげていることである。中国はこうした実力を背景にしながら、アメリカのグローバル化戦略によって被害をうけている第三世界諸国と連携し、アメリカ、ヨーロッパ、日本などの西側帝国主義同士の対立を利用しながら、アメリカの「一極支配」をつきくずす戦略をとっている。

 二つめは、昨年らい急速にすすむ南北朝鮮の統一へむけた動きである。それは、紆余曲折があるにせよとめられない動きであり、北朝鮮を「ならずもの国家」として封じこめていく根拠をうしなわせている。

 三つめは、日本、韓国、中国、ASEAN諸国、インドをふくめた東アジア全域が、アジア経済危機の後遺症をのこしているとはいえ、世界の製造業の二五%以上の生産力をもち、二一世紀にひきつづき成長していく潜在的可能性をもった地域であるということである。アメリカの多国籍企業はこのアジア地域に死活的な利害をもっている。

 四つめは、世界の「多極化」の動きである。「冷戦」終結後、一時はアメリカの「一極支配」「ひとり勝ち」のような状況がうまれたが、その後、ヨーロッパ諸国はEU(欧州連合)の結成や統一通貨・ユーロなどをつうじて独自の経済圏を形成している。かれらは、おなじ資本主義体制でありながらも、アメリカ流の市場経済至上主義とはことなった、雇用や環境問題などを重視した独自の社会発展モデルをつくりだしている。そして、地球温暖化防止のための京都議定書をアメリカがほごにしようとしている問題やミサイル防衛計画をめぐって、アメリカとのあつれきをふかめている。

 もし、こうした流れが東アジアにも波及し、日本、中国、南北朝鮮、東南アジア諸国をふくめた独自の経済的政治的統合がおこなわれるならば、アメリカ帝国主義の利益をいちじるしくおかすことになる。

 そのためアメリカは、アジアにおける自国の多国籍企業の利益をまもるために、中国と日本をはじめとする他のアジア諸国とを分断し、対中国包囲網をかたちづくろうとしているのである。

 そして五つめは、ITや金融分野をてこにしたアメリカ経済の一時的成長がネットバブルの崩壊で終焉し、アメリカの経済的衰退があらわになっていることである。ブッシュ政権はこの危機をタカ派的対外政策でのりきろうとしているのである。

カナメ石となる日米同盟

 重要なことは、アメリカのアジア重視、対中国包囲網戦略のなかで、日米同盟がカナメ石になっており、小泉内閣もこれを積極的にになっていこうとしていることである。

 それは、日本の多国籍企業も、このアジア諸国に莫大な権益をもっているからである。日本企業は、日本を拠点に、韓国、台湾、ASEAN諸国、中国、南アジア諸国などに重層的な国際分業体制をしいている。

 その特徴は、日本企業が、アジア諸国に重要な部品や素材を輸出し、現地の低賃金労働力で加工・組立をして、完成品をアメリカへ輸出していることである(もちろん日本への逆輸入もある)。

 もともと日本本国からの対米輸出依存度も約三〇%と非常に高いが、アジア経由のものをくわえればそれ以上にアメリカ市場への依存が高い(下記の表参照)。それは、日本がヨーロッパ諸国とくらべて、アメリカへの「忠誠度」が高い理由の一つだといえる。

東アジア諸国の対米輸出依存度 (1998年) 
星野芳郎著『日米中三国史―技術と政治経済の55年史』(文春新書)より引用
  対米輸出額
(億ドル)
総輸出額に
占める割合(%)
対日輸出額
(億ドル)
対日輸入額
(億ドル)
第1位、2位輸出商品
日本 1,178 30.5     電気機械、乗用車
中国 326 17.9 318 259 綿布衣料、ニット衣料
香港 406 23.8 91 233 衣料・同付属品、電気機械・同部品
台湾 293 26.6 93 270 電気機械、情報機器
韓国 216 15.9 147 279 半導体、機械機器
シンガポール 218 19.9 72 169 事務機器、電気通信機器
マレーシア 146 18.6 98 172 輸送機械、原料別製品
タイ 111 19.5 87 161 機械、食料品
フィリピン 98 34.4 45 95 電子電気機器、衣料
インドネシア 75 14.4 127 91 鉱物性燃料、原料別製品

 九〇年代のなかばには日米の経済摩擦が激化し、さらに沖縄での米兵による少女暴行事件への抗議の声がひろがり、日米同盟にゆらぎが生じかねない事態もひきおこされた。そのため、アメリカは九六年の橋本―クリントン会談で、「日米安保条約」の再定義をおこない、日本をアメリカの世界戦略のもとにしっかりとつなぎとめた。

 その具体化として九九年には「周辺事態法」が制定された。それは、「日本が侵略されたときに米軍が日本をまもる」というじゅうらいのたてまえをこえて、アメリカが世界的な規模でおこなう軍事介入や侵略行為にたいして日本が全面的に「後方支援」をおこなうというものである。だが、これまでは憲法九条の規定にもとづいて日本は集団的自衛権は行使できないという内閣法制局の解釈にしばられて、あくまでも「後方支援」にとどまっていた。

 これにたいして、二〇〇〇年一〇月にはアメリカ国防大学の「国家戦略研究所」が「日米の成熟したパートナーシップにむけて」という報告書を発表し、日本に「集団的自衛権」を行使しないという原則を撤廃することをもとめた。それは、「後方支援」にかぎるといった制約をとっぱらい、自衛隊が米軍とともに海外での軍事行動に出動し、F15やイージス艦などを動員して直接戦争にのりだすということにほかならない。それは、米日の多国籍企業の利益をまもるための戦争である。

 これに呼応して自民党の国防部会も今年三月に集団的自衛権の行使へふみこむことを提言した。それは当然、憲法九条の規定にふれることから、改憲論議がにわかに高まっているのである。しかし、すぐに九条に手をかけることにたいしては世論の反発もつよいため、まずは国会決議で集団的自衛権をみとめ、憲法改悪までのつなぎとしようとしている。

 このような流れのなかで四月二日には文部科学省が、「新しい歴史教科書をつくる会」の歴史教科書を検定に合格させた。その内容は、太平洋戦争を「大東亜戦争」とよび、「日本の南方進出は、アジア諸国が独立をはやめる一つのきっかけともなった」などと日本帝国主義の侵略行為を正当化、美化している。南京大虐殺についても「さまざまな見解があり論争がつづいている」などとして事実さえ否定しようとしている。

 小泉首相が、靖国神社への公式参拝への意欲を表明していることも、たんに戦争で犠牲になった人人への哀悼の気持ちを表するというレベルのものではない。靖国神社には、侵略戦争の最高指導者がまつられており、そこに小泉氏が首相という公式の立場で参拝するということは、かつての侵略戦争を公式に正当化する
という意味をもっている。さらには、将来、日本が米軍ともに侵略的軍事行動にでたときに、その死者をふたたび靖国神社へまつるという道をはききよめるものである。

 中国をはじめ、アジア諸国が日本の集団的自衛権行使や教科書問題、靖国公式参拝問題に警戒感を表明していることは当然のことである。

 日本がどのような進路をとるのかが問われている。

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