NEXT
目次

革開放の中国の現状と中国労働運動の課題

中華全国総工会国際連絡部副部長 白 立文

日中労働者交流協会の2000年5−6月訪中団報告集

『労働通信』2000年11月号

 中国はこんにち、世界の情勢とりわけアジアの情勢のなかで非常に重要な位置をしめるようになっている。このなかで、中国の労働者階級が改革開放のもとでどのようなたたかいをしているかを知ることは重要である。
 そのため本誌では、 日中労働者交流協会 が今年五月に訪中したさいに中華全国総工会(中国の労組ナショナルセンター)国際連絡部副部長の白立文氏よりうけたレクチャーの内容を転載する。

 昨年、1999年は中国にとってたいへん重要な年でした。

 一つは、香港に続いてマカオが返還されました。マカオ返還をめぐってわれわれ労働組合もさまざまなイベントをおこないました。マカオの労働組合と手をくんで「一国二体制」を立派に実行していくために下準備をしてきました。

三つの政治闘争

 もう一つは、昨年、三つの政治闘争がありました。一つはアメリカをはじめとするNATO軍がユーゴの中国大使館を空爆した事件です。これを中国国民にとって最大の政治闘争としてゆずらずにアメリカやNATO諸国とたたかいました。アメリカのクリントン大統領は「これはアメリカのミスであり中国にすまない」と議会はじめ各所で五回も弁明をくりかえしました。われわれはこれをミスとして受けとることは絶対できません。空爆の原因究明を要求しました。

 この闘争をつうじて国民は、中国や社会主義諸国にたいするアメリカなど西側の認識をよく理解しました。とくに資本主義の本質をわれわれははっきり認識しなければなりません。国際社会はかならずしも太平ではなく、覇権主義や強権政治があいかわらず存在しているから、発展途上国とくにアジアの国国が連帯しなければならないことをあらためて認識しました。

 もう一つは「法輪講」にたいする闘争です。法輪講は中国の邪教のようなものです。少数の人は健康になるとまどわされて中国の政府や政令にたいして破壊やかく乱行動をおこないました。政府はこれを邪教としてきびしくとりしまりました。

 三番目は台湾の李登輝とのたたかいです。李登輝は政権を交代する前に「二つの中国」という方針をだしましたが、これは中国にとって絶対許せない政策です。われわれは「一つの中国、一つの台湾」路線にたいしてたたかっています。われわれは「一国二体制」、そしてまず「通商(貿易)」「通郵(郵便)」「通航(航空)」の三つの「通」、「三通政策」をだしています。

 「一つの中国」は原則であって絶対譲歩できないものです。外国の介入がなければわれわれは平和的に台湾問題を解決することができます。しかし、外国の勢力の介入があればいざというときは中国は武力をもって台湾を解放するとわれわれはずっと主張してきました。ご存知のとおり台湾問題は共産党と国民党の内戦によって中国にのこされた問題です。これからわれわれは「平和統一」と「一国二体制」の方針で台湾問題を解決していくつもりです。

 台湾問題は中米関係や中日関係にかかわっています。日本は台湾とふかい利害関係をもっており「一つの中国」について一部政界の人はよろこびません。日本の一部政治家や労働組合の代表が5月20日、台湾の陳水扁総統就任式典に参列しています。わたしたちは台湾総統の就任式に参加するのは好ましくないと思っています。

経済成長から構造調整へ

 昨年の経済情勢は一昨年にくらべてよい成績でした。国内総生産・GDPは98年より7.1%成長しました。農業生産も連続して大豊作でした。穀物の総生産高は5.08億トンでした。中国の穀物は豊作のため貯蔵する場所がたりない状況です。中国の食料問題は全部解決しました。

 製造業・工業生産は3年連続して構造調整をおこないたいへん効果をあげました。成長率は前年比8.5%でした。これはアジアの金融危機をのりこえて達成されたもので、それがなければもっと高くなっていたでしょう。一部国有企業は赤字から黒字にかわり、すこし利益をふやした企業もあります。とくに繊維、鉄道、建設そして非鉄金属の四つの業種の成績がよかったのです。製品構造もよくなり、国際市場での競争力もたいへん向上しました。年間輸出入貿易の総額は3607億ドルでした。増加率は11.3%です。国の外貨準備高もふえまして、現在1547億ドルで、アジアでは日本についで二番目です。大陸と香港と台湾をあわせた中国全体では3000億ドル以上になります。日本は2200〜2400億ドルくらいの外貨準備高で、それをくわえると6000億ドルになります。われわれは犠牲を受けても人民元の為替レートをきりさげませんでした。

 農民や都市部住民の収入もふえました。増加率は高くありませんが六%程度でした。消費者物価指数はマイナスになって政府が困っています。政府は積極的な財政政策をとって内需拡大を刺激しています。

 史上はじめてですが、今年から中国では連休が3回になりました。一つは、メーデーが7日間全国いっせいの連休になりました。国慶節も7日間、旧正月も7日間となり休日が一度にふえました。

 今年の5月ははじめてだったのでたいへんでした。北京へ300万人が地方から観光にきました。泊まるところや食堂が大混雑しました。北京では五月一日から四日までデパートは24時間開店しました。中国全体では飛行機と鉄道を利用した人が4700万人でした。その他の車や他の交通手段は統計がとれません。一億以上の人が旅行したと考えられます。

 昨年農村の1人当たり所得は2210元で都市部は5854元です。農村の収入の増加がおくれています。一時帰休で失業している人は1150万人でした。1年間で492万人を再就職させました。中国に一時帰休者がどれくらいいるかきっちりつかめません。中国人は計画経済になれているので日本のように失業したら職安や役所にとどける習慣がありません。そして、もとの職を失ってもすぐには失業にならず失業保険ももらえません。なぜかというと、企業との雇用関係が継続しているからです。仕事をまっているあいだも企業は労働者に再就職まで基本生活費をはらいます。ほんとうの失業者は、外資系企業、合弁企業、私営企業、郷鎮企業から解雇された労働者です。全国で登録された失業率は約3.1%です。

 今年3月の全国人民代表大会で朱鎔基首相は政府活動報告をおこない「われわれはもう成長率を決めない」と発言しました。今年のポイントは数字よりも「質」と経済効果を重視するとのべました。

 中国の経済にはまださまざまな困難が存在します。一つは、経済構造のアンバランスです。たとえば、第一次産業、第二次産業、第三次産業のあいだにどのようなウエイトをおくかという問題です。とくに第三次産業、サービス産業と流通産業がまだ発達していません。全体で30%にもなっていません。日本のように60%以上になれば一挙にわれわれの失業問題が解決できると思います。経済構造の調整問題としてまだおおくの労働者があまっていて、年間500万〜600万人が職場から除外されています。これは政府にも労働組合にとっても大きな圧力になります。新生人口が年間1200万人いますし新規労働力も毎年400万〜500万人います。一時帰休労働者と新規労働者をどのように仕事に配置していくかがわれわれの長期にわたって解決しなければならない課題です。

 もう一つは社会保険問題です。いままでの「すべて国家が請け負う」かたちから、自分がすこし負担するようになります。社会と企業、個人の三者が負担するかたちになります。この案では入院の場合、自己負担が10%ほどです。今後労働組合が補填(ほてん)してなるべく労働者の100%に保険が適用されるようにしていきたいと思っており、さらに年金や失業保険なども整備しなければなりません。

 また、農民の収入の問題です。改革開放の当初は一番収入が増加したのは農民でした。さいきんは付加価値のない農産物では収入がふえません。農民のあいだに不満があり、どのように農民の収入をふやすか政府の課題になっています。

 アジアの金融危機いらい3年間、世界的な傾向として内需拡大が重要な問題になっています。労働者はなかなか金をだして物を買いません。それは年金や医療などあらゆる制度が改革のさいちゅうで将来が不透明だからです。

 中国では去年から福祉としての住宅配分を廃止しました。社宅など住宅を無償であたえたり家賃をはらうなど旧来の制度は昨年末に終了しました。これまで住んでいた住宅は個人に売却され、勤続年数などを計算してその金額を決めます。労働者は住宅問題をこれから考えなければなりません。もちろん貯蓄率がどんどんあがっています。みなが買わず貯蓄にまわしますから物価がさがりマイナスになっています。エアコンやカラーテレビも考えられないほど安くなりました。中国でこういう現象は10年前に考えられなかったことです。

 以上が現在の経済情勢です。

労働組合のガイドライン

 中華全国総工会は1994年末の第12回大会第4回執行委員会で、社会主義市場経済に移行するなかでの労働組合のガイドラインをつくりました。労働法が改正され労働者の利益を擁護する機能を突出させることを決めました。これまで労働組合は四つの機能をもっていました。一つは「擁護」の機能で、労働者の民主的権利、政治的権利、経済利益の擁護です。二つめは「参与」機能で、国家・社会の運営にかんする重要な決定に参与する。三番めは「参加」機能です。国家の建設、つまり社会主義建設、経済建設、企業の運営にわれわれは積極的に参加します。四つめは「教育」の機能です。

 ところが経済は社会主義計画経済から「計画のある商品経済」、そして現在「社会主義市場経済」へとあゆんできましたが、いまは国家と企業と労働者の三者関係です。すべて市場に支配されるなかで労働者の経済的利益や民主的権利をまもることが中国の労働組合の最大の課題になっています。

 このあたらしい情勢に対応するためには、労働組合の四つの機能のうちで労働者の利益を「擁護」する機能が最大だと思っています。労働者の利益を守らないでは労働組合はいきのこれません。そのためにわれわれは「五つの突破と一つの強化」という方針をだしました。失業者を再就職させることが労働組合の最大の課題です。総工会は「われわれが第一責任者にならなければならない」というスローガンをかかげています。1995年から思いやりをとどけるプロジェクトをはじめ、毎年旧正月前に社会の資金を捻出し失業して生活にこまっている労働者の家庭にお金や品物をもって慰問します。

 各単組の専従役員はだれがこまっているか掌握して上部に報告し上部団体からおりる資金をとどける仕事をしなければなりません。労働組合が再就職のための技術を身につけさせるために職業訓練にとりくんでいます。去年、政府から労働組合は年間150万人の職業訓練をおこない年間100万人再就職させるという指示を受けました。そのために労働組合が職業紹介所をつくり就職をあっせんしています。また、日本の生活協同組合のような労働者消費合作社を全国に4万カ所つくり、商品を仕入れて直接労働者に販売します。さらに困っている企業にたいして技術協力隊をつくり、この数年間で約410万所帯を扶助し、約130万所帯を貧困から脱出させました。

 労働者の利益を擁護する第二の方法は「平等協商」といいますが、労働者と使用者(行政)が平等の立場で交渉し、労働協約を締結させることです。国有企業の90%で実施しました。労働者の賃金、労働時間、福祉、就業規則などすべて労働協約で決定します。国有企業45万社のうち35万社で協約が成立しました。今後、逐次に三資系企業(外資系、独資、合弁、技術合作)と私営企業、集団所有企業でも協約を締結していく予定です。中国で政労使の三者構成で協商するシステムを逐次構築していきたいと考えています。

 第三に労働者の民主的な参加と監督を着実に保障することです。中国の国有企業には従業員代表大会を基本的な制度としてつくっていますが、さらに整備しようとしています。日本には労使協議制、ドイツでは共同決定制度、イギリスには民主契約制度がありますが、いずれも労働者の民主的参加を目的にしています。わたしはそれぞれの制度を研究しましたが中国の従業員代表大会が理想的だと思いました。日本の労使協議制では労働組合側は経営側の説明を聞き意見をのべますが、経営権には絶対たちいれません。

 中国では労働組合は経営サイドにも権限をもって参加します。しかし、現在この従業員代表大会制度がりっぱに機能しているのは25%くらいです。わたしたちはこれをさらに整備していかねばなりません。

 従業員代表大会は、審議権、決定権、罷免権、提案権、奨励という五つの権限があります。審議するために工場の経営状態や福祉状態などをまず知る権利があります。知ったのちに討議し、労働者の身近な利益にかかわるすべての問題について労働組合が決定します。従業員代表大会は、年間の労働の成果を生産拡大、人件費、奨励金、福祉などにそれぞれ何%ずつ配分するかを決定します。この五つの権限のうえにさらに一つの制度を確立しようとしています。それは企業の経理や経営状態を公開し、労働者の監督を受けるという制度です。

最大の敵は内部の敵

 正直にいって、共産党の最大の敵は外からの敵ではなくて内部の敵です。アメリカ帝国主義には絶対負けることはありません。内部の敵とは「汚職・腐敗」ですが、改革開放の20年間、扉をひらいて新鮮な空気がはいると同時に、ハエや蚊など腐敗物も中国にはいってきました。若者がすぐ資本主義のライフスタイルを学んで一時的に拝金主義におちいりがちです。共産党内部の腐敗行為は党のイメージを非常に大きくダウンさせました。人民、労働者大衆はこれに非常に大きな不満をもっています。これを是正することは共産党の存続にかかわります。共産党員一人一人がこの問題を重視しなければなりません。

 大衆は共産党が腐敗とたたかっていると思っていますが、もっとしっかり取り締まらなければなりません。官僚主義的に一人がすべてを決めている状態は良くありません。したがって、工場内の情報をすべて公開させる制度が重要です。

 改革開放20年間でわれわれがみなおしたことは、企業を立派に運営するためには労働者大衆の支持がなければならないということです。一つの企業をダメにするのに一人の腐敗分子がいれば十分です。労働組合はそのなかで自分の機能をはたさなければなりません。労働組合は大衆組織であり、大衆と密接なつながりをもって労働者の悩み、喜び、悲しみを全部知っています。われわれはそれを上に反映させ腐敗をみつけ、それをみずからただしていかねばなりません。労働組合はこれにたいしてさらにつよい手段を講じていかねばなりません。

 五つの「突破」の四番目は、あたらしくできた企業の労働組合を強化することです。われわれは海外のみなさんに自信をもって「われわれの組織率は90%以上だ」といってきましたが、計画経済の下ではそうでした。しかし、中国ではいま経済関係も所有体制も人人の価値観もかわってきています。これから3年間であたらしい企業の労働組合を組織したいと思っています。

 今外資系企業ではたらく労働者は1700万人です。そのうち労働組合に組織されているのは549万人で三分の一にもなっていません。これからさらに努力しなければなりません。私営企業や郷鎮企業ではたらく労働者は約1億2000万人ですが組合員は800万人しかいません。従業員が10人〜20人のちいさな企業ではゼネラルユニオン(個人加盟組合)をこころみていきたいと思っています。

 国有企業ではたらく労働者は1億5000万人です。自営業ではたらく労働者は約3000万人です。われわれの対象とすべき労働者は3億人以上です。われわれはいま一億人あまりしか組織していません。三分の一です。都市部の国有企業においては組織率は85%と高いが全体としては高くありません。組織強化はわたしたちの将来に永遠に続く課題です。

 五番目に労働者の技術向上と合理化提案にとりくんでいます。国有企業改革のなかで労働組合の小集団活動にもとりくみ経済効果をあげていますが、たいした変化はありません。

グローバル化のなかで

 いま、われわれがしんけんにとりくんでいるのは、経済のグローバル化のなかで労働組合がどのように対応していくか、中国の労働運動にどのような問題をもたらすかという課題です。例をあげると、アジアの金融危機がおこりますと中国に直接的ではないが間接の影響がでてきます。まず、輸出が減ります。国有大企業の吸収や合弁など再編成はかんたんですが企業改革のなかで中小企業が売却されたり合弁されたりしたとき、そこではたらく労働者の利益をどう守っていくのかはわれわれがいままで経験しなかった問題です。

 以上がわれわれがいま取り組んでいる課題です。これらの課題にとりくむために総工会の本部や地方、産業別組合など労働組合の改革が日程にあがっています。いままでの計画経済のもとでの指導の仕組みでは適応できません。これから労働組合の機能を転換させなければなりません。われわれはあたらしい情勢に適応した機能を獲得しなければなりません。そして労働組合を建設し整備していかねばなりません。いままでの指導部門から単組の活動を重点にし、それに奉仕する方向へ転換していかねばなりません。本部にすわって電話やファックスで指令をだしているだけではもうダメです。現場は北京の町とおなじように毎日かわっています。地図が毎年かわりますが「労働組合」もおなじです。これがいまわたしたちが直面している課題です。

 

日中 労働者交流協会
 旧総評系の労働組合、労組活動家を中心に70年代から日中労働者の交流活動をとりくんできた。
 今年5月には、全港湾の指導者であった吉岡徳次氏を団長として6人の労組活動家による訪中団を派遣している。

前の記事へ |  目次へ戻る

この記事のTOPへ戻る

この記事へのご意見、ご感想をメールでどうぞ


NEXT
目次