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ストラのなかで追いつめられる労働者

東ソー労働者 水谷 郁男

 

『労働通信』2000年9月号

 

 わたしは、同僚のK氏から職場のことについて相談をうけたことをきっかけに、地域のなかまと交流会をひらき、労働者の連帯によって問題を解決する道をさぐっている。

追いつめられる労働者

 わたしたちがつとめる総合化学会社・東ソーは、はげしい国際的な企業間競争のいきのこりをかけて徹底した経営の効率化をはかっている。その一環として1999年12月時点で本体従業員約3355人であったものを、分社化・省力化・職場の統合・外注化促進により2000年末までに2702人にする予定で、いままさにそれを達成しようと徹底した人員削減をおこなっている。さらに2003年までには2500人体制、そして将来は2000人体制にする予定である。

 このような人員削減により、労働者に労働強化・多能工化がもたらされ、それに配転が強要されている。労働者のなかには、あたらしい仕事に適応できなかったり、あたらしい職場での人間関係になじめなかったりして、精神的に追いこまれるケースがさいきんふえてきた。

 この傾向は7月からの新賃金制度の導入によってさらにふえると予測される。新賃金制度はじゅうらいにもまして給与にしめる業績給の割合が高くなっていて、とくに総合職は年齢給が廃止になり業績・能力・貢献度がそのまま給与に反映される。新賃金制度の導入で職制にたいして忠実なものや自己中心的なものがふえることも予想され、個個の労働者の深刻な問題にたいし、しんけんにいっしょになって考えようとする者もすくなくなり、労働者同士ますます孤立していくものと思われる。

現場一筋のK氏にいきなり固定資産の計算をやらせる

 今回相談を受けたK氏もこうした状況のもと、精神的に追いつめられたひとりである。

 K氏が精神的に追いつめられた状態にいたるまでの具体的な経過はつぎのようなものであった。

 K氏は出荷係に所属していたが、出荷業務が人件費削減のため、子会社に移管されることになり、おなじ課内の製品を製造している係に配転されることとなった。

 そこではいずれ三交替をおこなうことになるが、K氏にはつねに頭痛とかの持病があって現在、精神科医にカウンセリングによる治療を受けている身で、夜勤をともなう三交替勤務は実際にはむりである。そこで、常昼職場の希望を課長に申しでたが、単純労働の常昼職場は東ソー内では、いまほとんどない状況で(単純労働は下請け化の方向)、K氏の場合もみつからなかった。

 そこで、課の事務関係の仕事をすることになったが、あたえられた仕事がいきなり固定資産の計算とかの専門的な知識を要する仕事で、それにワード、エクセルとかのソフトもおぼえる必要があり、現場一筋でやってきたK氏にとって思わぬ状況におかれた。それでもなんとかできるようになろうと、積極的にわからないところを周囲の人に聞いていたが、課長は「他の人のじゃまをするな」とか、「とことん考えてから聞け」といってやる気をなくさせる。

 それに、事務経験がまったくないにもかかわらず、すぐ結果をもとめようとし、仕事がすすまないと「ふつうの人は一聞いたら十わかる」などといってせめる。また、体の不調を訴えると、「体がわるければ、会社はリハビリの場ではないのだから休んで、なおしてからでてこい」といわれた。

 事務所のあるスタッフはK氏のそういった状況をみかねて、「ぼくがめんどうをみよう」といってくれたが、課長は「いいよ、ぼくがみる」といってそれを拒否した。にもかかわらず仕事にかんしてはなにも教えない。それでもK氏は課長にお世話になっているということで中元をおくったが、そのままおなじ品物がおくりかえされてきた。

会議にもよばれなくなる

 さいきんでは事務所の朝の会議や月例報告会にもよばれなくなったし、課長が発信する回覧物にもK氏の名前のところだけ斜線になっている。そういったようすをみて、T氏(課のナンバー2)は「幽霊ですね」とか「課長はやめてもらいたいのでしょう」と平然といってくる。課のナンバー2であれば課長に進言してよい方向にもっていってくれればよいのにとK氏は思ったが、そのようなところはまったくみうけられなかった。それにさいしょ同情的であった人も、さいきんあまり話しかけてこなくなった。

退職を前提に話をする組合

 こういった状況のもと、K氏は精神的に追いこまれて、組合に相談にいったが、組合は「休職にすると一年間は基本給がでて一時金(ボーナスのこと)も30%支給されるので、それからやめてもよいではないか」とやめることを前提にしたもののいい方をするだけで、この件にかんして積極的に会社にはたらきかけていまのK氏のおかれている状況を改善しようという気はすこしもみられなかった。

 さいきんではたびかさなる課長の露骨ないやがらせで、「わかかったら首根っこをつかんで便器に頭を突っこんでやる」とまでいっており、課長に怒りと憎しみをいだくまでになった。

課長個人の問題ではない

 これまで、K氏は課長の一連の言動が課長の個人的な性格にあると思っていたが、ここさいきんの東ソーの動きから、「それは課長の個人的な性格の問題ではなくて、組織的にみずからやめていくようにしむけられているのではないか」と話した。

 わたしは、「K氏のような状況はけっしてK氏だけの特殊なものではなく、他職場、他社の労働者にも共通してみられる。この状況をかえていくには、おなじ境遇におかれた労働者同士がよく話しあって解決策をみいだしていくことが必要だ」と話した。

 労働者のさまざまの問題を根本から解決する方法をみいだすには、現在の資本主義の経済システムとそこにある本質的な考え、そしてそこからくる諸矛盾を知る必要があるが、まず、他の労働者もおなじであることを認識してもらうため、地域交流会をひらくことにし、それに参加してみるようにすすめた。

 この地域交流会は以前から計画していたものであり、この機会にひらくことにした。

時間も忘れて語りあう

 この地域交流会は、いろいろな職場の労働者がざっくばらんに職場の状況や実態、それに家庭とかの身近な問題についてなんでもよいから経験を通じて話しあうことを中心にすることにし、会の名称を「ちゃぶちゃぶ会」と名づけた。「ちゃぶちゃぶ」とは、わたしたちの地方の方言で、「おしゃべり」という意味だ。

 初回の参加者は4人(東ソー2人、S社2人)で時間がたつのもわすれて3時間にわたって会社の状況や各自がいま思っていることなどをのべあった。

 その交流のなかで、共通していえるのは、どちらの会社も以前にもまして、企業間競争に生き残りをかけて、労働強化、多能工化、分社化による賃金低下など、なりふりかまわない負担を労働者にしいてきていることである。そのやりかたは、資本の本性を丸だしにした非情ともいえるものだ。

 たとえば、長年一つの職場で経験をつんできた労働者をある日突然、まったく職種のちがうところへ配転させるというようなことが平然とおこなわれ、まさにこれについてこられない者はやめろといわんばかりである。また、会社の「合理化」計画では先に人員削減ありきで、それによって仕事がとどこおりなくできるかとか、安全面はどうであるかは二の次ぐらいにしか考えていない。

 そのせいか、職場ではさいきんトラブルがおおくみうけられるようになっている。これらのことは、どちらの会社にも共通しており、参加者は話し合いのなかで、一様に憤りを感じていた。

堅苦しくならず少しずつレベルアップをはかる

 「ちゃぶちゃぶ会」は今回が初回で、それに、なかには初対面という人もいたが、全員、活発に話しあいができた。この交流会で「労働者のおかれた状況はどこもおなじで、おなじように不満をもっている人がいる。おたがいはげましあいながらがんばろう」という労働者の連帯感が自然とうまれたような気がする。わかれぎわ、再会をちかったこともそのあらわれだろう。

 今後は、なぜ労働者はこのような境遇にあるのか、どうしたらよいのかなどテーマをかかげ、それについて討論していく形式もとりいれていくつもりである。しかし、あくまでも「ちゃぶちゃぶ会」はこの名の通り、参加者同士が活発なおしゃべりを通じて、思ったこと、悩んでいること、それに考えていることを率直にはきだしてスッキリした気持ちになることが大前提であるから、けっして堅苦しくならないようにしたい。そして、こうしたふんい気のもと、すこしづつ内容のレベルアップをはかっていこうと思っている。

 また、この会で生じた素朴な疑問について、現労研に教えをこうことがあるかもしれないが、そのときはよろしくお願いいたします。

 

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