『労働通信』2000年7月号
今年5月、通常国会で、会社分割にかんする商法の改定案と会社分割にともなう労働契約承継法が成立した(閣議決定は3月10日)。
職場の労働者にとってはよほどくわしく新聞を読まないかぎり、この「商法の改正」や「労働契約承継法」の正体を知ることができない。
簡単にいえばこれらの法律の改定や成立は、独占資本のリストラ「合理化」を合法的にいっそうすすめていくための方向なのである。
さいきん、商法の改定がたてつづけにおこなわれている。商法は、会社の設立や運営、合併、分割、解散などをとりきめた法律であるので、この改定は労働者の生活にも直接影響してくる。
リストラ「合理化」をすすめるにあたっての最初の商法の改定は、純粋持ち株会社の解禁であった。
純粋持ち株会社とは、事業をおこなわず株式のみを所有することで、国内の会社の事業を支配する会社のことである。
戦前の三井合名会社のような財閥の本社が典型だが、これは独占禁止法の成立で、持ち株会社の設立は禁止された。
しかし、商法、独占禁止法の部分的改定で、純粋持ち株会社の設立が解禁となった。現在すすめられている、金融機関とくに生命保険の再編、NTTなどは、持ち株会社方式により柔軟なリストラや投資の集中を容易にして、企業本体の利潤の確保を確実にしようとしている。
つづいて1997年5月の商法改定では、企業の合併がかんたんにできるようになった。それは、企業が合併するときに合併契約の承認をうける「承認総会」、合併後の「報告総会」、合併した新会社設立の総会が、廃止、または簡素化された。
また、合併に反対する株主がいれば、容易に合併がすすまなかったが、これからは、この株主のもっている株を合併株式の比率で交換したり、買いとることで合併をすすめることができる。
これによって企業の合併がすすめられ、その効果は、さいきんの企業統合に役だっている。
今回、国会を通過した、商法の改定と、労働契約承継法には、どのような問題がひそんでいるのだろうか?
企業分割が容易になるということは、いままで以上に赤字部門をきりはなし、それに便乗して、中高年の労働者や、資本に反抗する労働者を、この部門におしこめ、「会社ごと部門ごとリストラ」することが可能となる。
つまり赤字部門、リストラ対象労働者をおなじ「どろ舟」におしこめ、まるごと沈めてしまう可能性がおおきいのである。
日本労働弁護団などは今回の商法の改定について「労働者保護が不十分」として抗議している。
労働契約承継法にしても、最初民主党が「会社分割にさいして労働者保護の立場がまったく欠如している」と主張し、付帯決議された。
しかし、会社が分割されるときに労働者の立場はどのようになるだろうか? 会社分割自体は、銀行の個人むけ・企業むけなどの分野別再編、電機メーカー・自動車メーカーの分社化、航空会社や運送会社の貨物・旅客・整備の分離・コスト削減に大いに役だつといわれている。
だがそこではたらく労働者にとっては、まるで「針のむしろ」にすわる状況となる。
まず「労働契約承継法」というが、いまの会社にのこるか、あたらしい会社にいくかということについて、企業は労働者個人とは事前交渉できるが、労働組合とやる必要性はまったくないということになっている。
職場でさまざまな問題が発生すれば、労働者は(労組があれば)まず労働組合に連絡し、ここの組織に依拠して企業と交渉したり、闘争したりする。
労働組合と事前協議せず、該当する労働者とだけの協議になれば、ばらばらにされた労働者では勝ち目はない。
労働契約の新会社への継承や労働者自身の「拒否権」があるとはいえ、実際に労働者は企業に抵抗できなくなる。連合や全労連はこの点に大きな不満をもっている。
分割されても厚生年金、健康保険が継承されない問題も浮上している。まさに労働者にとっては、「リストラ・合理化促進法」である。
そうはいっても、労働契約継承法には労働者との事前協議や、国会での付帯決議(会社の分割を口実にした一方的な労働条件の不利益変更、企業再編のみを理由にした解雇、営業のみを理由にした分割などの禁止)が罰則規定がないとはいえさだめられている。
これらの項目がすべて労働者に役だつものではないが、企業とたたかう上で活用することが必要となる。
職場でもリストラ「合理化」に反対する行動を強化することが労働者や労働組合にいっそうもとめられる。
とくに今回の商法の改定、「労働契約継承法」の成立については、連合、全労連、全労協など労働組合のナショナルセンターは、企業分割の際の協議や労働協約の締結の問題に関して完全に排除されていることに大きな不満をもっている。
労働組合が労働協約や労働者の労働条件について集団交渉をするのは当然のことだ。労組ほんらいの機能を破壊し、労働者をバラバラにしながら各個撃破する商法改定・労働契約承継法に断固反対できるような職場体制をつくろう。