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アメリカ労働運動の息吹伝えたA・バンクス講演会

東京都・自治体労働者 高野 健一

『労働通信』2000年7月号

 さる5月11日から15日にかけて、APWSL(アジア太平洋労働者連帯会議)日本委員会、国際労働研究センター、共同センター労働情報の共催により、東京各地で、AFL・CIO(アメリカ労働総同盟・産別会議)ジョージミーニー・センターの上席客員教官であるアンディ・バンクス氏の来日講演が開催された。

 AFL・CIO関係者の講演を聞くのは、1997年4月7日に開催されたジョン・スウィーニーAFL・CIO会長の講演いらい二度目である。3年前に来日したジョン・スウィーニー会長は、アメリカにおける労働者階級の惨状についてつぎのように報告していた。

 「1979年から1995年のあいだに『ダウンサイジング』によって4300万人の職がなくなりました。これらの労働者のうち三分の二はより低い賃金の仕事についています。五分の一の労働者は健康保険がありません。企業は年金と手当を削減し、労働時間を増やし、休暇を減らしています。賃金と財産の不平等は大恐慌の前いらいみたことのないレベルにあり、年年悪化しています。アメリカの労働者はお金をつかいつくし、選択をしつくし、希望をつくしました。かれらは貯金をつかいはたしたうえに、重税を課されています。かれらは政府と雇い主を信用しなくなりました。かれらの疎外はわれわれの社会の構造を暴露しています。労働者、その家族、アメリカの労働組合のための声はささやきとなってしまいました。

 それが、わたしがAFL・CIOの会長選挙に出馬し、勝利した理由なのです。これはわたしの信念ですが、われわれ労働組合の力を再建することによってのみ、アメリカをそうとうの賃金、仕事の保障、相互の責任という本道にひきもどせるのです。われわれ組合員の抜本的な増加によってのみ、はたらく家族がわが国の政策と政府を動かす力を回復できるのです。そしてわが国におけるわれわれの運動の再建によってのみ、われわれは世界中の労働者を支援できるのです。

 そして、ジョン・スウィーニー氏は、

 18カ月後、わたしは、われわれがAFL・CIOの再建、わが社会における労働者の声の回復、そして、世界経済における労働者と家族のためのあたらしい声の創造にむかって長足の進歩をとげていると報告できるでしょう。われわれは、よりおおくの労働者の組織化、より大きな政治的動員、国内の雇い主と同様に多国籍の取引についてのあたらしい戦略の開発と実行をあらたに強調し、こたえていくでしょう。

――と決意をのべて帰国した。

 4カ月後の8月19日、パート2万人を正社員にするというUPS(ユナイテッド・パーセル・サービス)労組の全面的勝利を実現させた。さらに、2年後の1999年11月30日から12月1日にかけ、WTO(世界貿易機関)シアトル会議を失敗に追いこみ、世界中のブルジョアジーを震撼させた。ジョン・スウィーニーの決意は現実となった。世界最大最強の帝国主義本国の労働者階級のなかでなにがかわりはじめたのか。こうした問題意識のもとに講演に参加した。

 講演は、「WTOシアトルのたたかいとアメリカ労働運動」「米国における労働者の組織化と労働者教育」「労働組合のあたらしい国際戦略 国際産別の役割」「UPS争議の経験から――非正規雇用労働者の組織化と国際戦略」の四つのテーマで順次おこなわれた。

 わたしは最初と最後の講演に参加した。

WTOシアトルのたたかいとアメリカ労働運動
(講演要旨)

 AFL・CIO自身は組合員をもっていない。傘下の労働組合を つうじて労働者を動員する。当初、どのくらいの労働者があつまるのか未知数だった。AFL・CIOのなかでも、WTOとの連携を追求する労組と、WTOを糾弾する労組とにわかれた。WTOシアトル会議の3週間前に労組内の意見対立があきらかになった。

 シアトルは労働運動の中心地からとおいため、2万人の動員を予定したが、実際には、五万人が結集した。これは組合の指令なしに労働者が自主的に結集した結果であり、グローバル化に反対する労働者の声の大きさをあらわしている。

 わかい人がいちばん力を発揮した。かれらは労働者や動物の虐待の根源はWTOだと指摘している。環境保護団体のDAN(直接行動ネットワーク)のメンバーが中心だった。30年前のベトナム反戦運動時とはさまがわりだ。当時は公務員労組と農業労組をのぞいて反戦運動の経験者は労組にはいることができなかった。

 11月30日、DANはWTO参加者の入場阻止に成功した。12月1日、国家権力はDANに狂暴な攻撃をしかけた。あるDANのメンバーが、労組員である両親に携帯電話で「警察がいまなかまの頭をかちわっている」と実態を知らせた。両親は、ちょうど労働組合の集会に参加しており、この知らせがつたわると、ただちに労働者が会場にむけデモに出発した。これによって、これ以上の国家権力の暴行を阻止した。4000人から5000人の労働者はみずから国家権力の暴行にたちむかっていった。これ以降マスコミは若者たちを好意的に報道しはじめた。「チームスター(労組)と緑ガメ(環境保護の象徴)の出会い」と評判になった。

 WTOシアトルでの行動がほんとうに影響をあたえたのは、労働者が職場にかえってからだった。たたかいに参加した労働者は職場の労働者に英雄としてむかえられた。このたたかいによって、おおくの労働者がグローバル化とのたたかいの方向をみいだした。AFL・CIOは「グローバル・フェアネス」(国際的な公正)というあたらしいキャンペーンを開始した。キャンペーンの内容は、@大規模なグローバル化暴露の教育 A公正な貿易をもとめる運動――アメリカによる中国への最恵国待遇を阻止 Bメーン州からマレーシアまで世界の労働者をつなげた多国籍企業の規制運動などである。

 AFL・CIOは4月16日、17日のIMF(国際通貨基金)総会開催阻止への行動を開始した。ジュビリ2000(最貧国の債務取り消し運動)が、4月9日、IMF総会を人間の鎖でとりかこむ行動を計画し、AFL・CIOはこれを支持した。4月9日、12日と連続して集会が開催された。

 戒厳令により、世界銀行の職員ですら、皮膚が黒い人はデモ参加者として逮捕された。すべての印刷所が閉鎖された。4月16日の集会には3万人が結集した。IMF総会そのものは阻止できなかったが、世界銀行の首脳たちが討議の議題をかえざるをえなかったという意味で勝利したといえる。なぜなら、世界銀行とIMFは一般民衆にとって、なぞの存在だったが、4月16日の前後の一週間、マスコミは徹底してとりあげ、国民のあいだで理解がひろがったからだ。

UPS争議の経験――非正規雇用労働者の組織化と国際連帯
(講演要旨)

 UPS(ユナイテッド・パーセル・サービス=宅配便会社)の争議の勝利には三つのカギがある。一つは、組合員の参加である。18万5000人の全組合員と執行部が毎日コミュニケーションをはかった。そして、組合員の要求をつかんだ。二つは、広い支持をえることである。国民的支持をえる方法として、社会正義をかちとるたたかいを準備した。地域的にも周到なキャンペーンをはった。三つは、UPS資本の世界戦略を詳細に調査したことである。

 UPS争議はパート労働者の問題が直接の問題だったが、18万5000人の労働者がUPS資本をきらっていたという問題がある。1981年にUPS労働者の三分の一がパートであったとき(レーガン政権成立時)、旧労組執行部と資本とのあいだで、正社員とおなじ時給のパートを無制限に採用するという労使協約がむすばれた。1995年には労働者の三分の二がパートとなったが、正社員の時給はどんどんあがったのに、パートの時給はすえおかれたままだった。

 そのうえ、パートには健康保険が適用されず、集配センターで腰痛の労働者が激増したのに医者にもかかれなかった。このため、パートで1年以上はたらきつづける者はひとりもおらず、毎年全員がいれかわるという状況だった。

 どのようにストライキを準備したか。UPSは全米50州に事業所があり、6つの勤務時間帯がある。まず、労働者のコミュニケーションをかちとらねばならなかった。  

  1. 1996年6月、ショップスチュアード(職場世話人)5000人からアンケートを回収した。7月、1人の活動家が5〜6人の労働者を担当するピラミッド状の通信網をつくった。
  2. 1996年10月、アンケート用紙を手渡しで全組合員に配布し、4万人から回収した。要求の第一はパートと正社員の差別撤廃であり、第二はパートの正社員化であり、第三はトラック運転手は下請化しないという契約をまもらせることであった。
  3. 労使双方の長所・短所をはっきりさせた。UPSの長所は負債がなく、国内の同業他社をおさえ、国内市場の85%を占有し、欧州に10億ドルを投資していることだった。UPSの短所は欧州への進出がよわく、欧州の労組に敵対的で、安全衛生状態が最悪であることだった。労組の短所は一般組合員と地域の双方から孤立していることだった。労組の長所は戦闘的指導部が着任早早であり、UPSに闘争意欲が高まっていることだった。
  4. 労組の目標を確立した。組合員の要求を把握することと会社の弱点を突くことである。
  5. 運動のテーマを創出した。国民むけのメッセージを検討した。アメリカ国民の家族のうちの一人は非正規雇用で苦しんでいた。そのため、「パートではアメリカは動かない」「非正規雇用がアメリカをだめにしている」をテーマに選定した。
  6. 攻撃対象は集配センターにおいた。職制が労働者を痛めつける訓練校まであった。バイトの大学生が深夜勤務のために労災までひきおこされた。同盟者は、医療労働者、消費者、海外労働者などとした。
  7. 戦略は、毎月、職場で行動することである。未来あるバイト学生がどんなにひどい状況ではたらいているかを暴露した。消費者が会社に圧力をかけるようにはたらきかけた。労働者の国際連帯をとりくんだ。
  8. 戦術。当初、組合員は行動に消極的だった。そこで、全組合員がCEO(最高経営責任者)にはがきをだすことからとりくんだ。五万人の署名をそえた手紙をだすことができた。苦情処理申したてを1日5000件おこなった。いそがしいとき監督者が手つだうのは契約違反であり、発見しだいとりかこんで警笛をならした。毎月就業前に集会をひらきデモして職場へはいっていった。集会には支援者を参加させ、テレビで放映させた。大学のキャンパスでUPSの募集活動に対抗し、労組が実態を暴露する宣伝をおこなった。ストのとき受取を拒否するという署名を消費者からあつめた。五月一六日には世界統一行動を組織した。このなかで、アイルランド、ブラジルで労組が結成された。欧州を中心に一三カ国で連帯行動がとりくまれた。
  9. 活動計画。
  10. 戦略の再評価。国税局がUPSの脱税を発見した。資本が一年間団交で対応しないという予想外の事態にたいし、戦略をねりなおした。
  11. あたらしい戦術の創出。EU(欧州連合)では母国で脱税行為をおこなった企業は営業できないという合意があり、EUがUPSを追及した。世界協議会としてUPS各国社長と団交した。母国でのUPSの罪状を暴露した。これは資本に大打撃となった。 

  ストライキは14日間おこなわれ、不便になったにもかかわらず、日ごとにアメリカ国民の支持が拡大した。4万人のパートのうち2万人が正社員となり、パートの時給も17ドルにひきあげられるという労組側の圧倒的勝利に終わった。

*   *

 二つの講演を聞いて、発展するアメリカの労働者階級のたたかいの息吹きにふれ感動した。しかし、なぜ、UPSのストライキやWTO反対のような、労組が社会正義をかかげ、国民の圧倒的支持をかちとるような、また、労組役員が一般組合員に奉仕し、一般組合員の積極性を発揚し、一般組合員が主人公となるようなたたかいができたのかについては不明であった。(講演「米国における労働者の組織化と労働者教育」で報告されたかもしれないが)

 講演後、講演者の論文が収録されている『二一世紀にむけたあたらしい労働運動』(連合・総合組織局訳)が入手できた。本書は、二一世紀にむけたあたらしい労働運動の提言であり、アメリカの労働者階級が世界の労働者階級に発したメッセージである。

 本書をよんでみて、アメリカの労働者階級のたたかいの発展は、たんに日本と労使関係がちがっているからというだけでは説明できない歴史的な転換だということがわかった。

 それは、アメリカにおける労働者階級の惨状がますます悪化していることと、労働者階級の構成が、白人男性中心から女性および有色人種中心へと変貌しているということである。その具体的内容について、『二一世紀にむけた新しい労働運動』はつぎのようにのべている。

 有色人種や女性についてのアメリカの労働運動の歴史は、恥ずべき行為の積み重ねである。AFL・CIO内の最高意思決定機関である執行評議会は、何世代にもわたり、年嵩のいった白人男性のほとんど独壇場である。1995年の大会当時、35人の執行評議会メンバーのうち、31人が白人男性で、ほとんどが60歳をこえていた。しかし、その大会を境に変化がおきた。

 大会直前におこなわれた、多様性にかんする討論の内容が、大会中にはじめておこなわれたAFL・CIO指導部選挙で、双方の候補者によって承認されたのは象徴的だった。それぞれの一括候補者名簿には女性がふくまれていた。トム・ドナヒュー会長は自分の側の候補者にバーバラ・イースターリングをえらんだ。一方、勝者となった全米サービス従業員組合(SEIU)のジョン・スウィニー会長は、書記長にリチャード・トラムカを、新設の副会長職にはリンダ・チャベスト・トンプソンをえらんだ。

 くわえて、執行評議会の枠が35人から54人に拡大され、大会の決議で最低でも10席が有色人種にわりあてられることになった。あたらしい執行評議会には9人のアフリカ系アメリカ人、2人のラテンアメリカ系、組合史上初のアジア系アメリカ人、そして、女性7人がふくまれていた。こうした変化はよい方向への第一歩であったが、その一方で、参画と民主主義を求めるたたかいはまだつづいている。

 このことが、アメリカの労働運動をこれまで伝統的に支配してきた「ビジネス・ユニオニズム」(資本主義を当然の前提として受け入れる路線)からの脱却をめざす路線をAFL・CIOにおいて確立させつつあるということなのである。

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