シリーズ現代資本主義の分析

生き 残りをかけた総力戦――自動車産業の国際的再編の背景

 

『労働通信』2000年5月号

 

 21世紀にむけて労働運動のあらたな発展をかちとるためには、「グローバル化」や情報化が急速にすすむ現代資本主義を分析することがもとめられている。本誌は、そのためのシリーズ企画の第一段として、今号では、自動車産業の国境をこえた合併・提携の性格をさぐり、それをつうじて現代資本主義の特徴をみていきたい。


 自動車産業の再編は、この1年半ほどのあいだに急速に進行した。現在では、おおむね八つのグループに集約され、またグループ間・企業間の部分的な提携が増大している。

 

 GMは、いすゞ、スズキにくわえ、日産系列だった富士重工を傘下におさめた。

 フォードは、マツダ、ジャガーを子会社化し、ボルボの乗用車部門を買収した。

 トヨタは、ダイハツ、日野自動車などへの出資比率をあげ、部品など系列会社とも関係を強化している。また、GM、フォルクスワーゲンなどと個別分野で提携している。

 ダイムラーとクライスラーは合併し、3月には三菱自動車を傘下にした。三菱は、ボルボとトラック部門で提携している。

 ルノーと日産が「同盟」を組んでからほぼ1年になる。ルノーはまた、トヨタと南米で提携している。

 フォルクスワーゲンはロールスロイスなどヨーロッパの自動車会社をさかんに買収・子会社化している。

 本田は、GMへのエンジン供給など以外は、独自路線で「個性的企業」として生き残ろうとしている。

 BMWも状況は本田とにているが、こちらはフォルクスワーゲンなどとの合併がうわさされている。

自動車再編の社会的影響

 自動車産業の国際的再編は、労働者に犠牲を転嫁し、搾取を強化している。また、部品・下請け企業のなぎ倒し・再編をもたらしている。

 別表は、ルノーとの提携後の日産の再建計画だが、ここには自動車再編がどんな社会的影響をおよぼすかが端的にあらわれている。

「日産リバイバルプラン」の骨子
  • 本社村山工場、日産車体京都工場など5工場の閉鎖。生産能力を30%削減し、販売好調時には稼働時間増で対応。
  • 労働者を14%、2万1000人削減。
  • 部品・資材取引先を1145社から600社以下に削減。「競争力のあるグローバル・サプライヤー(部品などの供給会社)」との提携強化。
  • 部品・資材購入コストを20%削減
  • 地域・国ごとにおこなわれていた部品・資材購買をグローバルに集中。財務管理もグローバルに集中。
  • 直営販売店を20%、営業所を10%削減。営業時間の延長。「カーポイント社」と提携して電子商取引を強化。
  • 保有する1394社の株式を、4社をのぞいて売却。
  • 車台、技術開発、各種仕様、部品調達などでルノーと共用化。

 この再建計画は、失業を増大させる。計画では2万1000人削減とあるが、これは本社と主要子会社だけの数字である。日産資本は同時に、部品供給元を半分にするとしており、関連会社の倒産や人員削減はばく大な規模にのぼるだろう。

 再建計画はまた、労働時間延長と労働強化をもたらす。生産能力を30%削減するとしているが、好況時にはどうする気なのか? 日産資本は、「年間4400時間の稼働を5000時間程度に増やして対応する」(ゴーン最高執行責任者)という。再建計画は、営業所での営業時間の延長もかかげている。

 これらの点でも、下請け・部品会社の労働者への影響はなおいっそう深刻である。

 再建計画のほとんどの項目は、下請け・部品会社の競争の激化、合併をうながし、しかも、国際的な競争・再編をももたらさざるをえないものである。再建計画は、部品価格の二割減を要求するとともに部品会社を半分に淘汰する一方、部品調達のグローバル化を計画している。要するに、部品会社に激烈な国際的コストダウン競争を要求するものであり、いいかえればよりいっそうの労働からの搾取を、長時間労働や労働強化や賃さげを、国際的に競争しろということにほかならない。

 また、これらは事実上、強力な技術開発能力をもった部品会社だけに取引先を限定するものだが、こんにちの技術開発はコンピューター化され、多額の先行投資がかかる。集団作業用の大型ディスプレイ装置、開発シュミレーション、高精度の3D表示ソフトや自動測定機器など、どれをとっても費用はかんたんに億単位を超えてしまう。大手部品会社にとってもそれは容易ではなく、いきおい合併をすすめざるをえない。ましてや、下請け・孫請けの町工場では対応できるものではない。

 そのため今後、日産系部品会社をめぐる合併・買収はどんどんおこなわれるだろうし、一部はすでにおこなわれている。

 代表的系列企業のカルソニックとカンセイはすでに合併をきめている。また、日産とルノーは部品の共同調達をきめているが、ほとんどの部品会社はヨーロッパに生産拠点がなく、直接の子会社でも16社中五社にしかない。ルノー側も事情はおなじであり、相互の合併・提携・淘汰がすすまざるをえない。ルノー=日産陣営外からも、GM系部品会社やドイツの部品会社など、日産系部品会社の買収を表明している資本はすくなくない。

再編の背景

 ほかならないいま、国際的合併・提携が急速にすすんでいる背景はなんだろうか。

@金融のグローバル化

 その背景のひとつは、金融のグローバル化である。

 こんにち、投機などで国際的に流動する資金の規模は巨大化し、実際に生産・貿易される価値量をはるかにうわまわるものになっている。アメリカ・日本・EU(ヨーロッパ連合)での外国為替取引高は、一日あたり6600億ドル(95年4月)にのぼり、たった1カ月で米・日・EUの一年間のGDP(国内総生産)の合計に匹敵する。

 このことは、各国の経済の不安定化をもたらさざるをえない。ほんのちいさなきっかけで、通貨が暴落し、資本がいっせいに流出し、恐慌になる。そのため、ラテン・アメリカ(94年)、トルコ(94〜95年)、アジア(97年)などたてつづけに金融危機がもたらされた。

 自動車産業においても、各国の市場規模が不安定化している。自動車の売上げ台数は、メキシコではたった1年で3割に激減(94年60万台、95年18万台)し、トルコでは36万台(92年)、65万台(93年)、25万台(95年)とはげしく増減した。ASEANでも、1336万台(97年)から514万台(98年)と急落し、いまも回復にはほどとおい状態だ。

 これはつまり、世界の一地域のみにしか進出していない自動車独占は不安定であり、世界中に工場と販路をもちうる規模でないとかちぬけなくなった、ということである。ASEAN地域に26%ものシェアをほこる三菱自動車がアジア危機の直撃をうけ経営難におちいりダイムラー傘下にはいったことは、この事態をよくあらわしている。
 金融グローバル化と通貨価値の不安定化はまた、日日もっとも有利な国で資本を運用・調達することをせまっている。

A技術開発費の激増

 合併・提携の背景の第二は、環境規制対応や情報技術などによる技術開発費の激増である。

 地球温暖化問題などにより、環境規制対応は、自動車資本の死活をわける要因になっている。「もっともきびしい」といわれるカルフォルニア州の規制では、2003年から販売の一割は「(有害物質)無排出車」にすることを義務づけている(ただし「準無排出車」五台で「無排出車」一台に換算)。事実上、「無排出車」「準無排出車」の販売が全体のシェアを決定することになるが、現在、「無排出車」はなく、「準」は日産の一車種のみである。

 環境規制対応車の開発には、きわめて高額の費用がかかる。低公害車(既存技術の改良)、ハイブリッド車(エンジンと電気の併用)、燃料電池車(水素を燃料にエネルギーを電池にためて使用)などがあるが、「決定版」といわれる燃料電池車だけでも開発費は数千億円とも一兆円とも試算されている。主要独占の手元資金量は、フォード約2.7兆円、ダイムラー2.3兆円、トヨタ1.9兆円、GM1.2兆円(98年)であり、単純計算すると最大のフォードでも手元資金の四割を燃料電池車開発だけにつぎこまねばならない。そのうえ、燃料電池車の実用化は2010年以降と予想されており、それまで開発費の回収はできない。またそれまでは、低公害車、ハイブリッド車などの「中継ぎ」技術でも競争していかねばならない。

 こんにちの経済「グローバル化」は、知的所有権の拡大、「世界標準」の重視などをともなっているが、これらは自動車独占間の競争をさらにいっそう激化させている。

 情報技術の発展をきっかけに、「知的所有権」の範囲が急速に拡大されている。以前は特許といえばなにか独創的で完成された発明品などだったが、いまでは生産工程におけるこまかな工夫などはもちろん、取引の方法や労務管理方法、はてはゴルフの握りかたをかえた打ち方まであらゆるものが「特許」とされている。また現にひろくつかわれている技術や、既存技術の自然な応用などにも特許権が適用されるようになっている。そのためどの産業の資本も、特許取得に血まなこになり、競争相手へのたんなる妨害や、特許訴訟への報復手段として可能なかぎりの特許をためこもうとしている。

 自動車産業も例外ではなく、たとえばトヨタの「かんばん方式」や、部品購入のオークション方式なども特許化されている。カナダのバラード社はダイムラーとフォードの出資を受ける燃料電池会社だが、燃料電池関連だけで約300の特許をもっているため各独占資本も頭があがらず、トヨタをのぞくほとんどがライセンス供与をうけている。

 こうした特許権拡大のため、開発競争は「さきに開発した者の勝ち」となり、自動車独占にとって遅れをとることは致命的になっている。

 これら技術開発費の増加と開発競争の激化は、開発投資の規模が決定的要因になっていることをしめしている。しかも要求される規模は、日産や三菱自動車などでは歯がたたず、GM・フォード・トヨタなどでさえも他社との提携なしにはやっていけないほどのものなのだ。

B情報技術の発展――部品調達と販売の国際化

 情報技術の発展と、それによる部品調達・自動車販売の国際化も合併・提携をうながす要因である。

 99年3月の通産省調査によると、日本の企業間電子商取引は98年に8.6兆円、総取引の1.5%だったが、2003年には68兆円、11.2%、アメリカではおなじ期間に2.5%から19.1%になると予想。また、日本での自動車・自動車部品の電子商取引化率は39.0%になるとされている。

 ネット取引の増大とともに、すべての自動車会社・部品会社・関連会社をふくめたネットワークが形成・整備されつつある。

 アメリカでは、関連会社1300社が参加してANXと呼ばれるネットワークがつくられている。これは、企業間の通信方式やデザイン・設計・図面・生産・加工などのデータ形式を統一させ、見積り方式などを標準化し、将来はオークション方式なども共通化させようというものだ。欧日でも、同様なものがつくられつつある。これらは、ネットワークとしては米欧日にわかれているが、参加企業や交換される取引情報は国境をこえたものである。

 これら国別統一組織とべつに、2月25日、GM・フォード・ダイムラーは、電子商取引専門の新会社を設立、共同出資を発表した。これはそれぞれ独自につくっていた電子取引システムを統合し、製品情報や受注、見積もりや値段交渉などの「インターネット取引所」を開設し、世界中の自動車会社・部品会社・ディーラがあつまる市場にしようというものだ。これには日産、ルノーなど他の独占も参加を表明している。

 ネットワーク化は、自動車資本にとって流通費を圧縮させるとともに、世界から部品・資材を調達し、日日の価格変動や為替相場に応じて機敏に、もっとも有利な場所で生産し販売する基盤となるが、他方ではそうしないと競争にいきのこれない状況をうみだす。

 それはまた、各国の経済からみれば、為替相場などのわずかな変動によって「機敏に」資本が逃避していくことを意味しており、経済の不安定化がますます助長される。そしてこの不安定化自体が、世界の全地域に生産・販売拠点をもつ資本でないと競争できない状態を、ますますつよめるのである。

 自動車そのもののネット販売も増加している。特徴的なのは、自動車本体だけでなく、アクセサリー・各種サービス・保険その他関連商品のほとんどを自社サイトを通じて売り込み、10年に一度程度の自動車本体買いかえ時だけでなく、ネットをつうじて恒常的に買い手をまるががえしようという方向があらわれていることだ。そのためGMはe‐GMという独立部門をたちあげ、トヨタも自社ホームページを経営の中核的なものにしようとしている。
 この方向は、ナビゲーション機器、車載携帯電話、車載インターネット機器などをめぐり、標準化競争に拍車をかけている。

C独占間の競争は「総力戦」に

 以上のことをつうじてあらわされているのは、こんにち、自動車独占間の競争は大規模な「総力戦」となっていることである。もはや、世界の全地域に生産拠点をもち、全地域から部品を供給でき、全地域に販売できる資本でないと競争できない。さらに、各地域ごとの車種別需要はおおきくちがうので、また、環境対応、技術開発などのコンピューター化、デジタル車載機器への対応など車種にかかわりない包括的技術が重要になっているので、一車種専門メーカーでは対応できなくなった。もはや、小型車、バン、トラック、RV、高級車などなど全車種生産の資本でないと競争できない。そのうえ、各国・地域ごとの環境規制や国産化比率規制などに応じても対応し競争していかざるをえない。

 そのため、合併・提携は、大なり小なり相互補完を目的としている。たとえば、3月27日に発表されたダイムラーと三菱自動車との提携はつぎの事情によっている。

自動車再編の歴史的意義

 それでは、自動車再編にあらわされる「グローバル化」の歴史的意義はなんだろうか。

 第一に、それは搾取の強化・失業の増大と資本組成の高度化にほかならない。これらは一時的には独占資本に高利潤をもたらすが、結局、恐慌の激化と利潤率の低下から、資本主義の危機をよびこむということである。

 第二に、国際的な労働者の団結の必要性を増大させるとともに、その条件を発展させることである。とりわけ、部品・本体の生産が国際化され、最適の生産地・部品調達地をもとめて資本がたえず移動するということは、世界の労働者の労働条件をたがいにつよくむすびつける。

 第三に、元請けと下請け、完成品企業と部品企業の労働者間の団結の必要性を増大させるとともに、その条件を発展させる。グローバル化は、一方の労働条件が即座に他方に影響する度合いを高めている。

 第四に、自動車資本の巨大化は、いわゆる「発展途上国」において自国資本による発展をきわめて困難にし、各国の経済を不安定にする。それは、帝国主義と被抑圧諸民族との矛盾を激化させ、また世界の生産力発展をさまたげている。

 最後に、以上すべての結果として、また部品・完成品生産の国際化と流通のネットワーク化の結果として、「グローバル化」は、世界社会主義の条件を成熟させる。

 

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