『労働通信』2000年3月号
昨年、オウム真理教にたいする対策として、団体規制法が成立し、12月27日から施行された。これは、無差別大量殺人を実行したオウム真理教にたいする「再発防止措置」として、オウム真理教の団体活動を規制するものだとされている。
だが、実際には「オウム対策」を隠れみのとして、集会・結社や言論の自由などの基本的人権を規制し、政府に反対するあらゆる政党・政派、市民団体、労働組合、グループなどの活動を規制する方向で拡大解釈される危険性をもっている。
今回、団体規制法が制定された背景には、一九九七年に政府がオウム真理教を破壊活動防止法の解散指定の対象団体としようとしたものの、公安審査委員会で検討した結果、オウム真理教が将来も暴力的破壊活動をひきおこすあきらかな証拠が立証できないとして、適用がみおくられた経過がある。そのため、破防法よりもより簡単に団体活動への規制をおこなえる法律として団体規制法が制定されたといえる。
団体規制法の概要は、19ページの図にまとめたとおりである。
まず、規制の対象となる団体は、@過去に団体の活動として無差別大量殺人をした団体、Aその首謀者が影響を有したり、事件当時役員だったものがいまも団体の役員だったりすること||の要件を二つともみたす団体である。
破防法の場合は、@政治的目的をもった団体であること、A暴力主義的破壊活動をすでにおこなったこと、B将来も再犯のあきらかなおそれがあること||を三つともみたす必要がある。九七年にオウム真理教を審査したときは、公安審査委員会でさえ、@Aの要件はみたすとしたものの、Bの要件は立証することができないとの判断をくださざるをえなかった。そこから、団体規制法では、再犯の可能性について立証することは不要にしてしまった。しかも、わずか三〇日間で審査しなければならないとしており、十分な審議をおこなう時間をあたえていない。
団体規制法では、まず第一段の規制措置として、公安調査庁長官の請求にもとづいて公安審査委員会が「観察処分」を決定できるとしている。
「観察処分」の対象となった団体は、役職員や構成員の住所・氏名、土地、建物、資産、負債、その他公安審査委員会が必要とみとめる項目について、処分が決定されてから30日以内、その後は3カ月ごとに公安調査庁長官に報告しなければならない。また、必要に応じて、団体の土地・建物にたいして立入検査ができるとしている。
これに違反した場合は、2年以下の懲役あるいは100万円以下の罰金が課せられる。
第二段は、「再発防止処分」である。これは、団体の土地・建物の取得や使用の禁止、「大量殺人および未遂」の関与者や当時の役員の団体活動の禁止、団体加入の強要や脱退の妨害の禁止、現金、債権、有価証券、貴金属等の贈与をうけることの禁止などであり、実質的にその団体を解散させるにひとしい処置である。これらは、その団体だけでなく、個個人の役職員やメンバーも拘束するものである。
以上のように団体規制法の「処分」の内容は、団体の活動を大幅に規制し、実質的に解散に等しい措置をとるものであり、憲法でさだめられた集会・結社の自由や言論の自由を根幹からゆるがす内容になっている。だが、団体規制法ではそうした重大な決定を、公安調査庁長官が請求してからわずか30日以内に公安審査委員会が決定しなければならないとしている。オウムへの破防法適用についての請求が棄却されたのも、公安審査委員会が時間をかけて審議と論議をふかめた結果であったともいえるが、団体規制法では公安審査委員会に十分な時間をあたえないまま「処分」を決定させるものとなっている。
重要なことは、政府がオウム対策を隠れみのして、集会・結社の自由や言論の自由を規制する法律をとおしていることである。いったんこうした法律がつくられれば、対象となる団体の要件を拡大解釈したり、あるいはその要件を改悪するなどして、政府に反対する、あらゆる団体の活動まで制限することが可能となるのである。
また、団体規制法にもとづいてオウムに「観察処分」と「再発防止処分」を適用したつぎの段階は、「これでもオウムを根絶できなかった」として、いよいよこれまで一度も発動されてこなかった破防法の「団体解散」処分を適用する筋書きができているとの指摘もある。
そうした可能性をしめすものとして、公安調査庁が「共産党」や新左翼潮流だけでなく、すべての市民団体や労働組合まで調査の対象としていることがあげられる。
最近あかるみにでた近畿公安調査局の内部資料(1996年)によると、これまでは「共産党」や新左翼諸党派を調査の対象にしていたが、同庁の機構・業務改革をおこない、「共産党」や新左翼諸党派を基軸にしながらも、市民団体、住民団体、労働組合などへと一気に調査対象をひろげている。労働組合では、連合から全労連、全労協まで、市民団体では反基地、反原発、消費税反対から生協、農産物などの産地直送運動、弁護士団体、市民オンブズマンまで、8分野110団体におよんでいる。(
もとよりオウム真理教がおかした松本サリン事件や地下鉄殺人事件をはじめとするさまざまな犯罪は糾弾されるべきであり、被害者にたいする救済措置もとられなければならない。また、おおくの将来ある青年をオウムのようなカルト宗教に走らせてしまう背景にある社会の問題について根本的な解決をはからなければならない。
団体規制法によってオウムを表面的につぶし、多少なりとも勢力をそいだとしても、オウム信者の「信仰」はのこるであろうし、弾圧によって「殉教者」という気分をつよめ、むしろいっそう危険な犯罪行為に走る可能性の方が高い。過酷な競争原理がいちだんと露骨となり、人と人との関係がますます殺伐となって、将来への展望もみいだせない現社会の問題を根本的に解決しないかぎり、カルト集団はなくならない。
そして公安当局の目的が、単に、「犯罪者組織」「カルト集団」だけにあるのではなく、おおくの労働者や勤労者の日常的な運動にまで目を光らせていることにあらめて注意を払わねばならない。かれらの目標は、「犯罪のぼくめつ」ではなく、人民運動の圧殺なのである。
「公安なんて、凶悪犯罪や左翼が対象だから関係ない」などと思っているあなた。かれらの調査対象はそんなものではありません。くれぐれもご用心。
| 近畿公安 調査局の内部資料より(抜粋)→ 詳細の資料はこちらをクリック |
(一)選挙関係
次期衆議院議員総選挙、衆参補欠選挙をめぐる情勢。取り組み団体の動き。政局関連法案、財政・外交問題をめぐる政党、諸団体の動向把握。
各種地方選挙の情勢把握、地域政党、ローカル・ネットワークの結成状況、過激な政治主張を掲げるミニ政党の結成などの監視。
(二)経済・労働関係
失業、就職難、雇用調整など雇用問題に対する、連合、全労連、全労協やその傘下の労組の動向の把握。
未組織労働者の組織化をめぐる労働団体などの動向の把握。
国鉄闘争などの労働争議とその支援団体の動向把握。
春闘、秋期年末闘争の状況の調査。消防職員の団結権をめぐる問題。これに対する自治労、自治労連、全消協消防職員懇談会の動きの調査。
地域労組の実態の把握。
地域における企業のリストラの実態。これの地域への影響と地元諸団体の対応状況の把握。
(三)大衆・市民運動
沖縄米軍基地をめぐる反対運動、その他の基地反対運動の動向の調査・把握。
原発反対運動、とくに原発の新増設反対運動について。
自衛隊の海外派兵反対運動をめぐる動向、とくに防衛庁や出先機関への要請行動の内容の調査。
市民オンブズマン活動、これの行政への告発運動の実態把握。
生活協同組合運動、産直運動の実態把握。
カルト集団の動向調査。
次の団体の中央組織の解明
原水禁、原水協、安保破棄・諸要求貫徹実行委員会、生活協同組合連合、反原発運動全国連絡会議、生活クラブ事業連合生活協同組合連合会、みどりといのちの市民・農民連合、産直運動全国協議会、全国市民オンブズマン連絡会議、情報公開を求める市民運動…
(四)法曹、救援、教育関係
弁護士会による司法改革、破防法反対運動の実態把握。
労働弁護団による労働争議、解雇・配転問題の取り組みの実態把握。
教育運動をめぐる日教組、全教の動き。いじめ、不登校問題、君が代・日の丸反対運動をめぐる各種団体の動き。
次の組織の中央、地方、支部組織の解明
自由法曹団、青年法律家協会、日本労働弁護団、アムネステイー・インターナショナル日本支部、日本ペンクラブ、日高教…