『労働通信』2000年1月号
市民団体を動員し、国民的世論の「合意」のもとで、「貿易の自由化」をさらに促進しようとした WTO(世界貿易機関)
のシアトル会議は、初日から大規模な抗議行動にみまわれ、アメリカ大統領・クリントンの思惑とは裏腹に、閣僚共同宣言がだせないという大失敗におわった。
WTOは冷戦終結後、GATTにかわって、「国際貿易の自由化」を促進する機関として発足した。
今回のシアトル会議は、農業の自由化などをすすめた、いわゆる「ウルグアイ・ラウンド」にひきつぐ会議として、設定された。
このシアトル会議で、アメリカ大統領・クリントンは、市民団体や労働組合を動員して、「国際貿易の自由化、途上国の劣悪な労働条件によるダンピングの廃止」を各国に合意させようとした。
しかし、クリントン政府の思惑とは裏腹に、シアトル市が戒厳令をひかねばならないほど、世界各国やアメリカの労働者、農民、市民の闘争の場となってしまった。
この背景には、いろいろな問題があるが、大きくわけるとつぎの点があげられる。
一つには、アメリカは空前の好景気といわれているが、富の配分はきわめて不公平であり、おおくの労働者が「規制緩和」のもとで正規雇用をはなれ、非正規雇用、パート労働者となることで、所得が低下していることである。
とくに航空、情報産業など、「冷戦」後アメリカが世界にさきがけて市場を席巻した分野では、労働力の流動化がはげしく、「規制緩和」がアメリカ労働者の利益になっていないことがあきらかになってきたからである。
二つ目には、WTOの会議の内容が、実際にはアメリカや多国籍企業の基準を世界中におしつけていることがはっきりしてきたことである。
「規制緩和」「民営化」などが一時流行したが、それはあくまでも多国籍企業とアメリカによる「グローバル・スタンダード」(アメリカン・スタンダード)であり、これによって、先進国、途上国を問わずおおくの労働者や農民がリストラや農業再編、経済再編の犠牲となっている。
このようなグローバリゼーションや「規制緩和」の正体が暴露されたことで、シアトルにおけるWTOの会場周辺はまさに「戦場」となったのである。
規制緩和に反対する労働者・市民のたたかいともかかわって、WTOの閣僚会議そのものも大荒れとなった。
農業や、情報産業で先端をいくアメリカは、これらの分野では市場開放を要求しながら、鉄鋼などの製造業については、「発展途上国の劣悪な労働条件が製品を不当に安くしている」として、ダンピングと決めつけ、「反ダンピング処置」を要求した。これにたいして、日本やEU(ヨーロッパ連合)は、発展途上国をまきこみながら、「二国間取引の拒否」「日本だけの問題ではない」としてアメリカと対立した。
また、発展途上国は、アメリカの独善的な見解と会議の運営方法を徹底的に批判して、宣言への署名拒否を表明する国が続出した。
このようにアメリカ帝国主義がWTOをつかって、貿易自由化、規制緩和などの攻撃をつよめるなかで、帝国主義や各国の反動勢力と労働者、農民、帝国主義に搾取、支配されている民族との矛盾と対立は、日ごとにはげしくなっている。
さらにこれと連動して、アメリカ、EU、日本などの帝国主義・独占資本諸グループのあいだで、世界市場のうばいあい、労働者や農民への規制緩和による犠牲の転嫁の方法をめぐる矛盾もかつてなくはげしいものとなっている。
今後、中国がWTOに加盟すれば、途上国を代表して行動することになり、ますますアメリカはWTOを自国の意のままに動かすのはむずかしくなるだろう。
こうして、米ソ二極構造崩壊後、「一人勝ち」してきたアメリカでさえ、どうすることもできない状況に追いこまれてきている。さいきんのマスコミ報道では、アメリカの経済が後退したときの世界的な影響までとりざたされている。
それは、21世紀前半のはやい時期に、国際的な規模での帝国主義反対闘争のあらたな高まりをつくりだす条件がうまれていることをしめしている。
| 解説 |
WTO(世界貿易機関)は、1995年にガット(関税および貿易に関する一般協定)を「発展的に解消」して発足した国際機関である。ガットが単なる条約のあつまりであったのにたいして、WTOはきちんとした組織をもっている。
WTO加盟国は、WTOでのとりきめと自国の国内法が矛盾する場合は、WTOの決定にしたがって自国の法律をかえることが義務づけられている。したがわない国には制裁措置を発動することもできる。しかもその運営は事実上アメリカに牛耳られてきた。
WTOでは、「自由貿易」を推進するため、農業保護の削減や工業製品の関税ひきさげだけでなく、労働問題や環境問題などひじょうに幅広い分野がとりあげられている。
このなかでアメリカは自国の競争力がつよい農業や情報通信などの分野では「自由化」や「知的所有権の保護」を要求する一方で、工業製品などの分野では「途上国は環境保護に費用をかけず、低労働条件で工業製品の製造コストをさげてダンピングをおこなっている」として、労働問題や環境問題、「反ダンピング措置」などをとりあげてきた。