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集 21世紀直前の労働者の状況


『労働通信』2000年1月号

 98年の自殺者が3万人をこえた。そのなかでは、リストラや経営不振を苦にした中高年男性が死をえらんだケースがおおかったという。

 終身雇用や年功序列賃金などが解体にむかい、パートや派遣労働者がふえ、「成果実績主義」の賃金の導入がすすむなかで21世紀直前の労働者の状況はどうなっているのか。

 いくつかの職場から、その実態を報告してもらった。


派遣と下請構造のなかでいきるソフト産業労働者

兵庫県・ソフト産業労働者

 わたしたちが働くソフトウエア業界は派遣労働が日常化している。なにかのプロジェクトがはじまると、それにみあった技術をもった労働者がいろいろなルートでかりあつめられ、それがおわると解散し、またあらたなプロジェクトがはじまる、というパターンがくりかえされている。

 それにくわえて、製造業や建設業とおなじように、親会社〜元請〜下請〜孫請〜曾孫請……といった伝統的な「重層的下請構造」がつくられている。その末端には、「SOHOワーカー」(在宅労働者)などとしゃれたネーミングでよばれているが、要するに「一人親方」が無数に存在している。

値切られる派遣料

 さいきんはおもな企業での「コンピュータ2000年問題」への対応が一段落して、この関係の仕事をやっていた技術者があぶれはじめている。その一方で、インターネット関連の仕事や、銀行・保険業界の再編にともなう金融システムの改造、電機製品や機械類にくみこまれるマイコン関係などの技術者のひきあいがふえている。

 だが、「2000年問題」対応をやっていた労働者は、汎用機やオフコンという一昔前の技術者であり、インターネットやパソコン系統のあたらしい技術を必要とする仕事にシフトすることは簡単ではない。いままで「2000年」対応でふりまわされ、あたらしい技術を勉強する時間も余裕もなかったからだ。

 深刻化する不況と各企業のコスト削減政策のおかげで派遣料も値切られている。一時はプログラムの設計をおこなう上級の技術者は、1人あたり月100万円をこえていたが、いまは60万円前後で買いたたかれることもめずらしくない。ひっぱりだこのインターネット関連の技術者でも、派遣料は買いたたかれる。

 そのうえ、ユーザー企業と労働者とのあいだには、いくつもの企業が介在するため、元請の派遣料が80万円であっても、本人にわたるのは30万円〜40万円前後だと思われる。派遣労働者の場合、ボーナスはないのでこれが全収入である。派遣契約がきれて、つぎの仕事がみつからない場合、派遣会社から社会保険からの脱退をもとめられることも多々ある。

事業主扱いの労働者

 さらに実質的には労働者であっても、企業との関係では「雇用関係」はなく、「業務請負」となっている労働者もおおい。「一人親方」の一種である。この場合、社会保険も雇用保険もない。30〜60万円の「請負料」のなかから自分で国民健保・年金の保険料をはらい、通勤費も自己負担し、毎年3月には税金の確定申告も自分でしなければならない。そのため、日常の食事代や交通費、生活費などについてもせっせと領収書をもらい、「経費」として申告して、所得税をすこしでも減らす対策を「自己責任」でやらなくてはならない。そのうえ、契約期間がきれてつぎの仕事がみつからなくても、「個人事業主」であるために失業給付もうけられない。

契約の途中解除も

 当初の契約期間がおわらないうちに、派遣先から「契約解除」となるケースもおおい。

 さいきんでは、「秘密漏洩」問題がクローズアップされたこともあって、個人情報をあつかう職場では「犯罪防止」の名のもとで24時間監視カメラが目を光らせているところもある。友人のA君は、たったの一度「居眠り」をしていた現場をたまたまカメラにとらえられ、それを理由に「契約解除」を通告された。「居眠り」自体はほめられたことではないが、あとから聞いたところでは、派遣先の企業で経費節減のため、派遣労働者を一人へらしたいという思惑があったようだ。

身体をすり減らす

 客先での精神的に緊張した仕事、納期におわれ肉体的にも疲労がたまるなかで、肩や腰、目をやられ、不眠症に悩まされ、身体をこわす同僚もふえている。

 わたしも、納期におわれて無理な作業をやったあげくに肺炎にかかり入院するはめにおちいってしまった。それでも納期をまもるために病院をぬけだして作業をつづけざるをえなかった。身体をこわしても、派遣先からは「健康面でもちゃんと自己管理をしてもらわないことこまる」といわれるからだ。

40歳を超えると……

 しかし、「バリバリ」と仕事をさせてもらえるのも20〜30歳代までで、派遣の場合、四〇歳代をこえるといくら技術が高くても敬遠されてしまう。歳をとると急激に変動するあたらしい技術を吸収しにくくなるのもさることながら、派遣先のプロジェクト・リーダーが30歳代という場合がおおく、「年上の人には命令しづらい」という事情もあるからだ。

 40歳代以上になると「SOHO」(在宅)になる人もおおいが、在宅で安定的に仕事を確保するのはひじょうにむずかしいことだ。

 こうしたなかで、派遣労働者のなかにも、将来に不安を感じ、精神的に不安定になる人もおおい。技術的にも高いスキルをもち、人間的にもしっかりしてあかるい人がある日突然、派遣先の仕事もオッポリだして失踪してしまうという事件がわたしの身近なところでもおこった。そういえば、かれは「いまの契約がおわったら、どこかの会社に正社員として就職したい」とポツンともらしていたのだ。

積極的な志向もある

 だが、くらい話ばかりではない。この業界の労働者は、人にもよるが、概して自分の意見をしっかりともち、企業や上司の権威にもまけず、はっきりと意見をいう人がおおい。複雑にからみあった問題を一つ、一つときほぐし、整理していく力をもっている。個人主義がつよいようで、じつは労働者同士が競争させられる世界への反発は案外とつよく、仲間を思いやる労働者としての志向は厳然と生きている。社会的な視野がひろい労働者もおおい。

 労働者をとりまく状況が年年年きびしくなるなかで、こうした積極的な要素をどのように労働運動へと組織するのかが問われている。


収入が半減、パート使い捨て明らかに

大阪府・郵便l労働者

 郵便番号七桁化の新処理システムは、本務者(正規職員)の8000人削減を実施するためのものであるが、これは将来の少子・高齢化社会の労働力確保に必要だといって導入された。郵便物の区分けは、郵便番号や機械化が導入されるまでは手区分による熟練労働が必要とされていた。だが郵便のほとんどが企業間の通信やダイレクトメールになり、郵便番号の記載率があがるにつれ機械処理の割合が60%〜70%になってきた。熟練労働は機械に追われる仕事になっている。

 労働集約産業といわれる郵便事業は貯金・保険・郵便で全国に30万人の本務労働者がはたらいているが、この20年間で郵便物は140%増えたのに、労働力は101%にしかなっていない。

 近畿の中枢のある郵便局でも、本務者はこの20年で60人削減されたが、パート労働者は200人をこえてしまった。全国でも本務者とパート労働者の比率は7対3、都心部では6対4になっており、安い、便利等のつかいすて労働が主流になりつつある。

 郵便局では8時間雇用のフルパート契約者はいない。フルパートでは退職金を支給しなければならないからだ。だから最長でも六時間や七時間契約になる。8時間まで勤務を延長しても残業手当はなく法定基準内労働となる。

 近畿のある郵便局では3時間や四時間契約で一番忙しい時間にパート労働者を配置し『効率化』をはかっている。

 また、新処理システムにともない深夜労働が増大しているが、本務者には月に5回までという制限がありながら、パート労働者にはなんの制限もなかった。

 そのためパート労働者は99年の4月までは夜9時から朝の7時までの深夜勤務を月に24回はたらいていた。夜と昼の生活がまったく逆転していた生活だが、一定の収入は確保されていた。あるパート労働者は「生活はきついが一年やると身体もなれてきた。月に手取りで24万円ぐらいあったから生活にはこまらなかった」といっていた。

 しかし、今年4月の労働法改定で年間の超勤の上限が360時間という制限ができた。本務者には労働時間の短縮という利点もあるが、深夜勤務のパート労働者にとっては収入の制限となってはねかえる。月にすると30時間の超過勤務の制限となる。深夜勤務のパート労働者は毎回2時間の早出超勤がセットになった勤務をしているので最高でも月に15回しか勤務できない計算になる。収入は半減し雇用契約も不安定な状況におかれたパート労働者はどうしていいのか悩んでいる。

  以前 現行
労働時間 21時〜翌朝7時 22時〜翌朝7時
勤務日数 月最高24回 月最高16回
収入 24万円 14万円

 フリーターと呼ばれるパート労働者もいるが、学費や生活を支える学生や、会社が倒産してここにきた年輩の人などがこうした深夜労働に従事している。深夜に救急車をよぶこともたびたびある。

 こうした現状をしっかりつかんで問題提起するべきは本務者であり、労働組合のあるわれわれの任務ではないだろうか。労働法の問題もわれわれが社会を変革していくうえでも重要な問題であり、労働者の自立と自覚をうながすうえでも必要だと思う。それは、われわれの家庭の問題でもあり、生活の問題をみつめなおす点からでも重要ではないだろうか。そうした学習会があれば是非参加したい。


「成果・実績主義」の賃金の本質をしだいに見抜く労働者

大阪府・清掃労働者

 能力主義、成果・実績主義の賃金を導入する動きが全産業でひろがっているが、わたしがはたらく民間清掃会社(従業員40人)でもさいきん、成果・実績主義の賃金の導入が提案された。

労働者を反目させ会社の取り分を増やす

 9月中旬、若社長が「重要な相談がある」として全社員をあつめて会議をひらいた。

 このような会議ははじめてのことだ。会議には地域の「労務協会」のS氏という人物が同席し、「新人事制度と就業規則の一部改正についての提案説明」をおこなった。

 提案された人事制度の内容は、「人生と仕事と人事」「動機づけと人事」「成果主義人事と能力」「新・人事制度など」||の項目で構成されている。全体をつらぬいている基調は、能力(生きがい、やりがい)を発揮してはたらき、仕事を向上(生産性向上)させれば賃金があがり、生活も向上するというものである。さらに会社が実行しようとしているものは「成果主義人事と能力」の項であきらかにしているように「人事の大きな流れ」(正規社員をパート、アルバイト、派遣などの労働者にきりかえること)をつくりだし、現在の年功序列型を基礎にした賃金を成果・実績主義の賃金に転換しようとしていることだ。

 会社側のねらいは、新人事制度についてのなかで「仕事の能力にむすびつけたうえで、各人の『仕事の向上』をはかり、ひいては企業全体の売上・利益をあげようとする制度のことです」といみじくものべているように、いかに上手に労働者をはたらかせて、会社のとりぶんを増やすかということである。

 この制度が導入されると、賃金が高いものと低いものとの格差がますます拡大し、労働者同士はあい反目させられ、相互不信におちいり、職場のふんいきはくらくなっていく。さらにこの制度は、こうしたことをおおいかくすために「公平・公正な『人事考課システム』と、適正な賃金制度の創設がかかせません」と、ありもしない「公平・公正」を強調して「人事考課システムと賃金制度の創設」をうちだしていることに特徴がある。

 また、会社はこの「新・賃金制度」を、労働者の「合意」のうえで導入したかたちをつくるために、全労働者をあつめた異例の会議をひらき、さらに労働者の代表三人をまじえた「プロジェクト会議」をつくって、具体的な問題についても「話しあい」をもっている。

会社を見抜く労働者

 新人事制度の「提案説明」がおこなわれて約3カ月が経過した。そのなかで労働者の意識も急速に変化している。

 ある人は当初、「この制度が導入されるのは、手ぬきをする労働者がいるからだ」と話していたが、会社の収入は市からの清掃の委託料約二億円にかぎられており、この収入は労働者がどんなに努力してはたらこうが、ふえるような仕組みになっていないことに気がつきはじめた。そして「いまは、安全の面で余裕をもった仕事の環境をつくる方が重要だ」というようになっている。

 また、ある労働者は「この制度を導入しても、給料さえさがらなかったらいいのでは」と思っていたが、「従業員が従業員を評価するようになるのはおかしい」というようになった。

 さらに別の労働者は、労働者のランクづけがおこなわれることを聞いて、顔色をかえて「ふざけるな」と怒りをあらわにしている。

 わたしは、この新人事制度の「プロジェクト会議」のメンバーになるよう会社側から指名された。

 それをうけるかうけないか、職場の仲間と相談したが意見は二つにわかれた。

 労働組合もない職場なので、プロジェクト会議のなかにはいってみんなの声を代表してたたかうべきだという意見と、そんなことをしたら会議の「決定」にしばられて、結局、「新人事制度」の導入に手を貸してしまうことになるという意見だ。

 相談の結果、とりあえず「プロジェクト会議」にわたしも参加することになった。

 第二回目の「プロジェクト会議」では、わたしは現場からだされている意見や怒りを胸にひめてのぞんだ。

 会議では、まずみんなが一番こまっている問題として、労働者が病気、けが、子供のことなどで休みたいと申請したときは、気持ちよく休ませることを要求した。有給がきちんととれない問題や、病気やけがをして診断書がでていても会社がなかなか休みをとらせない実態があるからだ。

 人事制度については、班長をきめて仕事の段取りをつけることには反対しないが、ランクづけや等級づけにはみんなが反対していることを主張した。

 若社長と労務士のS氏はあわてて「労働条件ではべつの話しあいの場をもちましょう」「ランクとか等級づけというのはやめましょう」といいながら、最後になって「班長、係長、課長補佐、課長というものをある基準できめましょう」といいだした。

 「ある基準」とは若社長があらかじめ書いてきていたものだった。たとえば運転手では「クレーンの操作ができる」「可燃物、不燃物のどちらかのコースがわかる。あるいは両方のコースがわかる」「臨時の仕事ができる」……といったものであり、はては「人事管理ができる」という「基準」まであった。助手にも「積み込み作業ができる」をはじめ以下おなじような内容の「基準」がつくられている。こうした内容でそれぞれ等級で七ランクできめようといってきた。

 会社側は、労働者の当然の権利である有給休暇をきもちよくとらせろという要求をのむようなポーズをとりながら、それとひきかえに人事制度のランクづけをみとめろと主張してきた。そして、わたしをのぞく二人の「プロジェクト会議」メンバーに会社の方針をのませた。

 「プロジェクト会議」の結論としては、会社の基本的な方針に賛成か反対かで話しあい、若社長の提案に肉付けをしてそれをあらためて全員の討議にかけるということになった。

 翌日、いっしょに仕事をした労働者に「プロジェクト会議」の状況を話すとかれは「プロジェクトできまったら反対できないよ」と、会社側のやり方を見抜いていた。 これからどうたたかっていくのか、職場の先進的な労働者とともに、これまでの経過を総括しながら検討していこうと思っている。

 

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